予防のための総論(読み)よぼうのためのそうろん(英語表記)Prevention of life-style related disease

六訂版 家庭医学大全科 「予防のための総論」の解説

予防のための総論
よぼうのためのそうろん
Prevention of life-style related disease
(生活習慣病の基礎知識)

一無・二少・三多による健康づくり

 生活習慣病予防のポイントは、「一に禁煙」「二に腹七~八分目(少食)と、酒は飲まないか飲んでも少酒」「三に運動、休養、そして多くの人・事・物に接して生きがいを高めること」にあります。これらをひと言で表すと「一無(無煙)、二少(少食、少酒)、三多(多動、多休、多接)」の生活になります。

 ぜひ、この「一無、二少、三多」を実践し、「元気で長生き」を享受しましょう。一無・二少・三多の6項目の生活習慣を、少しでも多く実践している人は、人間ドックでの異常所見の数も減少していくことが確認されています。

無煙

 たとえ、たばこを吸っている人でも、たばこを吸わないことが健康的であると心のなかでは思っていることでしょう。たばこの害は、肺がん気管支炎気管支喘息(きかんしぜんそく)などの呼吸器疾患のみならず、心臓病脳卒中、そして歯の病気、歯周病にも関わっています。

少食

 少食とは字のとおり、食事量は少なめに、ということです。食事量を少なめにとは、どの程度をいうのでしょうか。腹いっぱい食べたというのでは、食べすぎに相当します。腹八分目とよくいわれますが、それはあともう少し食べられるかなというもので、これが少食の程度です。

 脳には満腹中枢というところがあり、おなかがいっぱいになると食事をやめようと感じるところです。しかし、この満腹中枢は胃のなかの食事量をすぐに反映するのではなく、やや遅れて反応します。ですから、とくに早食いだと、胃のなかはいっぱいなのにまだ食べられると思い、つい過食になってしまいます。

 現実に、肥満の人は早食いの人に多いのです。もう少し食べられるかなという時点で箸を置くと、15分ほどすると満腹を感じるようになります。

 食事量は、肥満や糖尿病などにも関係しますが、実は寿命そのものに影響があります。ラットの実験によるものですが、環境条件を同じにして、自由に食事をさせたグループと、食事量を70%に制限したグループの寿命を調べました。その結果、食事量を制限したグループの寿命は、自由に食べさせたグループに比較して寿命が延長されることが明らかにされました。これは、年とともに内臓機能が低下するのを抑制することが、その正体であることもわかっています。

少酒

 お酒のアルコール成分はエタノールという化合物で、含まれる量でアルコール濃度がわかります。濃度が高いお酒とそうでないお酒では、必然的に適量も異なります。

 1日にとる平均エタノール量は、約20g程度が健康によいとされています。これはビールなら中びんつまり500ml、清酒なら1合、ウイスキーではダブル1杯の量です。つまりすべて1と覚えておけばいいでしょう。

 お酒を飲めない体質の人がお酒を飲み続けると、食道がんを起こしやすいという事実も明らかにされているので、飲めない人はなるべく飲まないようにしましょう。

 過度の飲酒により膵臓病や肝臓病などの病気になったり、あるいはアルコール依存症で家庭が崩壊したりすることは古くから知られているところです。このことからも1日1合以下の少酒が適当とされます。

多動

 体をよく動かしている人や運動をしている人は、心臓病、高血圧糖尿病骨粗鬆症結腸がんなどになりにくく、死亡率も低いことがわかっています。高齢者でも、よく歩くといった日常の活動は、寝たきりなどを防ぐ効果があります。

 生活習慣病の予防や高齢者の身体機能維持のための運動は、身体活動の強さと、行った時間のかけ合わせたものに応じて効果があがります。弱い運動なら長時間、強い運動なら短時間ということになります。

 日常生活のなかで、意識して体を動かす時間を増やしましょう。国民栄養調査によると、男性は1日平均8200歩、女性は7300歩歩いています。これを国民の健康指針としてつくられた「健康日本21」では、1日1万歩を目標に掲げています。1万歩というのは、合計2時間弱歩く量です。

 普段あまり歩いていない人は、まず今より約10分つまり1000歩多く歩くようにしましょう。さらにウォーキングなどの軽い身体活動なら1回30分以上、週2回以上行うように習慣づけましょう。

 高齢者では、1日20分程度のウォーキングや散歩、あるいは1日10分程度の体操をしましょう。

 ウォーキングが体によいことは、誰もが理解しているところですが、ウォーキングのためだけに時間をとろうとすると長続きしないものです。主婦なら、いつもと違う少し遠い店に買い物に出かける、勤務している人は、ひと駅先から電車やバスに乗るなどのように生活のひとコマにとり入れてみましょう。

 ちょっとしたことですが、積み重ねること、習慣づけることが健康への第一歩になります。

多休

 多休とは、多く休むということですが、長時間寝ようということではありません。残業時間休日出勤はなるべく減らし、疲れた場合は少し昼寝もとりましょうということです。

 睡眠時間は、眠る深さに関係しているので、眠りの浅い人は長時間必要ですし、深い人は短時間で十分です。いずれにしても朝起きたときに、目覚めがよいと感じればよいのです。

 高齢者では眠りが浅くなりがちで、昼間居眠りすることもあるでしょうし、若い人でも残業などで前日夜遅くなってしまった場合は昼寝をすることも必要です。ただし昼寝は、午後3時までの20分程度に留めておきます。

 仕事面では、残業時間が増える、休日も出勤しなくてはならないなどでは、知らず知らず体に負担がかかってきます。休日はせめて1カ月に6日はとるようにします。

 疲れをとる方法は、眠るだけではありません。お風呂に入って一日の体の疲れをとることも含まれます。入浴は体を温め、血行をよくして、疲労物質をなくす効果があるばかりでなく、副交感神経(ふくこうかんしんけい)が刺激され、心身の鎮静効果と心地よい眠りを誘うのにも有用です。

多接

 多接とは、人や事、物に多く接するということです。毎日がストレスに囲まれた社会といわれています。ストレス過剰な人に必要なのが、多接です。仕事を離れての多くの人、事、物に接する時間の過ごし方です。

 仕事を離れて友人と語り合う、音楽会に出かける、絵を鑑賞する、旅行に出かける、このようなことをぜひおすすめします。そして、この多接のなかで育まれたよい趣味が、さらに創造的な生活をつくり出します。

 東京都老人総合研究所と豊島区が、ぼけ防止について共同研究をしました。その結果、余暇活動や趣味をもっている人は、そうでない人に比べ、記憶力や注意力をみるテストでの成績が明らかに上回っていたという結果が出ました。つまり、計画的、継続的な余暇活動が脳を刺激して、能力の低下、つまりぼけることが抑えられるということが実証されました。

 音楽を聞くことで、私たちは心の安らぎや感動を得ることができます。音楽を聞いてリラックスできたと感じる状態では、脳波のα(アルファ)波が増加します。それは眠れない、頭痛、高血圧など、ストレスが原因と思われる症状に対して効果的です。そのような目的でつくられたCDも多数発売されています。

 また、聞くばかりでなく、演奏することも、ぼけを含めたさまざまな体のリハビリテーションに役立つことが明らかにされています。

和田 高士

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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