菩薩像としては異例な火焔を背負った忿怒相で描かれる。中世には、五大力菩薩が天災地変や疫病などを除くという信仰が一般に広がり、その図像が守り札として門戸に貼られるようになった。さらに五大力菩薩と記した紙が盗難よけの守り札とされたり、遊女たちが手紙の封に記したりする習慣もおこった。
《仁王般若波羅蜜経》に説かれる五尊の菩薩の総称。三宝を受持する国王があれば,その国を守りに行くと記されており,仁王会(にんのうえ)の本尊としてまつられた。仁王経には新旧二つの訳があり,旧訳(鳩摩羅什訳)では,金剛吼菩薩,竜王吼菩薩,無畏十力吼菩薩,雷電吼菩薩,無量力吼菩薩という五尊の名と,各尊の持物が述べられているが,新訳(不空訳)では旧訳とは異なる菩薩名を掲げ,しかも五尊を五方(中東南西北)に配置している。それを旧訳と対比させると金剛吼菩薩-中方・金剛波羅蜜多菩薩,竜王吼菩薩-南方・金剛宝菩薩,無畏十力吼菩薩-東方・金剛手菩薩,雷電吼菩薩-北方・金剛薬叉菩薩,無量力吼菩薩-西方・金剛利菩薩となる。五方に配置された五大力菩薩は,五大明王との対応が説かれ,密教との関係が強まる。作例には高野山の有志八幡講十八箇院にある巨幅の画像3幅(平安時代,国宝)があり,その他,高野山の北室院の五大力菩薩を一幅に描いた画像は火焰光背を伴う忿怒尊の姿に表現されており,密教との関連が強くなってから作り出された形式と考えられる。
執筆者:関口 正之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…近世になって発達した割印,押切印,千鳥印なども,この継目裏印の延長として理解できよう。継目裏印には〈五大力菩薩〉の印文をもつものがあり,封印に呪力が期待されていたことを物語っている。〈封じ目菩薩〉と呼ばれることもあったこの名号は,戦国から江戸時代にかけて書状の封じ目に書かれることがあったが,これは封じた内容を改変から保護する力がこの菩薩にあると信じられていたからである。…
※「五大力菩薩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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