地歌。のち江戸長唄でもうたわれた。〈五大力〉は五大力菩薩の略。手紙の封じ目にこの3字を書くと,五大力菩薩の加護で無事先方に届くと信じられた。歌詞はしばらく会わずにいる女から男へ送る文。その一節に〈互の心うち解けてうはべは解かぬ五大力〉とある。《歌系図》によれば地歌の作曲は白川検校。享保期(1716-36)の歌謡を集めた《吟曲古今大全》に見えるのが最も古い。狂言作者初世並木五瓶は1794年(寛政6)2月初演の《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》で,芸子菊野が三味線の裏皮に心変わらぬ誓いとして〈五大力〉と書く場面に,地歌の曲節をとり入れて〈めりやす〉として使い,翌年江戸で上演の際は2世杵屋(きねや)弥十郎作曲で,この歌の後半を〈いつまで草のいつまでも〉と歌い出す歌詞に改めて使った。これが長唄《五大力》で,普通〈めりやすの五大力〉と呼ばれる。地唄,長唄ともに沈んだ曲調で,そのなかに色めいた気分がただよう。日本名著全集《歌謡音曲集》に収録。
執筆者:松崎 仁
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