量子力学に現れる特殊な力。核子(陽子と中性子の総称)と核子の間に働く核力は,単に引き合ったり,あるいは退け合うだけでなく,両者のスピンやアイソスピン(荷電状態)を取り替えるという作用も含む。このようなスピンやアイソスピンなどの交換効果を伴う力を交換力という。例えば陽子と中性子が衝突するとき,進路が曲げられるだけでなく,陽子が中性子に変わり,中性子が陽子となって散乱されることがある。これは荷電交換型の力が働いたためである。交換の型によって核力を分類すると,(1)何も交換しないもの,(2)アイソスピンのみを交換するもの,(3)スピンのみを交換するもの,(4)スピンとアイソスピンの両方を交換するものの4種となり,それぞれウィグナー力,ハイゼンベルク力,バートレット力,マジョラナ力と呼ばれる。交換力が働くときは,2個の核子が組になって,いわばボンド(接着剤)で結ばれていると考えることができる。非交換型のウィグナー力がなく,スピン,アイソスピン交換の力のみがあるときは,4個の核子が組になってボンドで結ばれ,それ以上の核子とは結ばれない。このことは4核子系であるα粒子が強く結合していることと合致する。原子核内の核子1個当りの結合エネルギーは,2核子系(重陽子),3核子系(3重水素核),4核子系(α粒子)といくに従って急激に増加し,それ以後は一定値になるという飽和性を示すが,これも交換力によるボンドで理解できる。これらの事実が交換力を導入する根拠となった。
交換力は核子の間で粒子が交換されることによって生ずると考えられる。核力はπ中間子の交換によって生ずるものである。荷電π中間子が交換されるときは,陽子から中性子へ,またはその逆の転化が起こり,アイソスピン交換のハイゼンベルク力となる。またπ中間子が角運動量を運ぶときはスピン交換の力となる。核子はフェルミ統計に従うので,核子2個の状態は核子の位置,スピン,アイソスピンのすべてを交換したとき反対称である。したがってスピンの交換とアイソスピンの交換とを行うことは2核子の位置を交換することと同等である。マジョラナ型の力のもともとの定義は2核子の位置を交換する力であり,ハイゼンベルク力は位置とスピンの交換力である。このように交換力は核力の重要な部分となっているが,化学結合の量子力学的理論でも交換力が重要な役割を果たしている。
→化学結合 →核力
執筆者:宮沢 弘成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原子・分子、原子核、素粒子などの微視的世界において、相互作用をしている2粒子間で荷電、スピン、位置の交換をもたらす力。相互作用している粒子の状態によって変わる力で、古典理論では現れない量子論に特有の力である。たとえば、陽子と中性子の間に荷電π(パイ)中間子π+とπ-が交換されて生ずる核力では、陽子pと中性子nの間で荷電の交換がおこる。核子(pとnの総称)間にπ中間子が交換されると、π中間子は角運動量を運ぶので、核子のスピン(固有角運動量)の向きを変化させうる。生じる核力ポテンシャルは、2核子間の相対距離の関数に、荷電やスピンの交換を与える演算子を乗じた形となる。これはまた、位置交換の演算子を含む形でも表すことができる。素粒子間の相互作用で、荷電やスピンのような粒子固有の量子状態の変化をもたらすものは、広い意味で交換力ともいえる。原子や分子の間の力については、構成粒子間の力は相対距離のみによるクーロン力であるが、電子はパウリの原理(パウリの排他律ともいう。一つの量子状態には1個の電子しか入れないという性質で、電子系の全波動関数は電子の入れ替えに対して反対称でなければならない)に従うので、原子間に働く力は電子系の状態によって変化する。たとえば、水素分子では、二つの電子の合成スピンが0(一重状態)なら引力的だが、1(三重状態)では斥力的となる。このような力は、スピン交換演算子を用いて記述できる交換力である。
[玉垣良三]
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