人工肛門の知識(読み)じんこうこうもんのちしき

家庭医学館 「人工肛門の知識」の解説

じんこうこうもんのちしき【人工肛門の知識】

人工肛門とは
 大腸(だいちょう)や肛門の病気を治療するために、大腸から肛門まで全部、あるいは直腸(ちょくちょう)から肛門までを切除しなければならない場合があります。その際、腹壁(ふくへき)に孔(あな)を開け、切除する場所の手前腸管を孔から引きだし、そこから便を体外へ排泄(はいせつ)できるようにしたのが人工肛門です。
◎人工肛門の種類
 人工肛門は、つくる目的と場所、その形によって、いくつかに分類できます。
 腸閉塞(ちょうへいそく)、炎症性腸疾患潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)、クローン病)や先天性腸疾患(ヒルシュスプルング病鎖肛(さこう))などの治療の一環として人工肛門がつくられることがあります。この人工肛門は、時期がくれば、もとの状態に戻せる場合があります。このような目的でつくられたものを一時的人工肛門といいます。
 これに対して、直腸がん肛門がんなどの治療のために、肛門を切除してしまう場合の人工肛門を、永久的人工肛門といいます。
 人工肛門は、それをつくる場所によって回腸(かいちょう)人工肛門と結腸(けっちょう)人工肛門とに、その形によって単孔式(たんこうしき)人工肛門と双孔式(そうこうしき)人工肛門とに大別されます(図「結腸人工肛門(双孔式)」図「結腸人工肛門(単孔式)」図「回腸人工肛門(単孔式)」)。
●単孔式人工肛門
 腸管を切り離し、口に近いほうの腸管を腹壁に開けた孔から引き出す方式の人工肛門です。肛門側の腸管は切除してしまうことが多いのですが、切り口を閉じておなかの中に残しておくこともあります。
 単孔式回腸人工肛門は、大腸ポリポーシスや潰瘍性大腸炎になって、全部の大腸を切除した後に、よくつくられます。
 単孔式結腸人工肛門のほうは、そのほとんどが直腸がんや肛門がんのために直腸と肛門を切除した後につくられるもので、おもにS状結腸が使われます。
●双孔式人工肛門
 口に近いほうの腸管を人工肛門にする単孔式に対し、口側と肛門側の両方に孔を開けたものをいいます。一時的人工肛門としてつくられる場合が多く、回腸、横行結腸(おうこうけっちょう)、S状結腸がよく利用されます。
◎人工肛門の管理
 自然の肛門とちがって、人工肛門には肛門括約筋(こうもんかつやくきん)(肛門を開閉する筋肉)がありませんから、自分の意思で排便をがまんしたり、便を出したりすることができません。したがって、不随意な排便にわずらわされることなく日常生活を快適に送るためには、人工肛門の管理方法を十分に習得しなければなりません。
●装具
 不随意に出てくる便をためておくための装具が人工肛門の外側につけられます。この装具は、袋状の蓄便部(ちくべんぶ)と、人工肛門周囲の皮膚にこの袋を接着固定させる部分からできています。
 装具が皮膚に接する部分には、皮膚保護剤が使われ、材質や形状などがさまざまに工夫されたものが市販されています。
●スキンケア
 人工肛門周囲の皮膚は、便や便中の細菌、また装着具そのものの刺激を受けて、皮膚炎などの皮膚障害がおこりやすくなります。とりわけ回腸人工肛門は、排出される便が液状で消化酵素(しょうかこうそ)が含まれているため、皮膚につくとひどいただれをおこします。
 ひとたび皮膚炎をおこしてしまうとたいへん治りにくいため、適切な皮膚保護剤を選択するとともに、皮膚の清潔を保つなど、予防的なスキンケアを行なうことが重要です。
●防臭対策
 装具内にたまった便の臭いは、わずかでも気になるものです。臭いの強い食品を避けたり、臭いを減らす効果がある食品や薬品をとることが防臭に役立ちます。
 また、防臭効果のある装具を使用したり、消臭剤を利用することも有効です。
●洗腸法(せんちょうほう)
 結腸人工肛門で行なわれる排便調節法のことです。人工肛門からぬるま湯を注入し強制的に便を排泄させるもので、いわば浣腸(かんちょう)の一種です。定期的に行なうことで不随意な排便から解放されます。ただし、人工肛門の種類によってはできない場合もあるため、手術を受けた病院で相談してから実施します。
●人工肛門のトラブル
 よくみられるトラブルには、人工肛門が細く狭くなって便が出にくくなる(狭窄(きょうさく))、腸が筒状に飛び出す(腸脱出(ちょうだっしゅつ))、人工肛門の周囲が膨らむ(傍(ぼう)ストーマヘルニア)、人工肛門からの出血などがあります。これらの合併症は、手術を受けてしばらくたってからみられます。
 また、皮膚のしわがじゃまでうまく装置が装着できないとか、人工肛門の位置が悪くて管理しにくいというトラブルもあります。
 以上のような症状や悩みがある人は、手術を受けた病院やストーマ外来のある病院で相談してみるとよいでしょう。これらのトラブルは、適切な管理法を習得することや、手術で人工肛門をつくり直すことで改善できることが少なくありません。
〔注〕ストーマ外来(がいらい) おもに人工肛門に関連する疾患の診断と治療を行なう外来診療部門のことです。各地の基幹病院や大学病院などに設置されています。
◎人工肛門と社会保障
 人工肛門をつくった人で、以下に該当する人は、身体障害者福祉法に基づき、身体障害者と認定され、福祉サービスが受けられます。
・回腸人工肛門か、小腸に近い結腸人工肛門をつくった人
・人工肛門に著しい変形があるか、周囲皮膚に著しい異常がある人
・排尿機能障害がある人
・尿瘻(にょうろう)(排尿のために腹部に開けられた孔)がある人
 認定を受けるには、都道府県の指定を受けた医師に診断書を作成してもらい、居住地域の市区町村役所に申請します。
 さらに、公的年金制度による障害年金や、児童福祉法・生活保護法による治療費の支給が受けられる場合があります。詳しくは市区町村役所に問い合わせてください。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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