改訂新版 世界大百科事典 「人工鉱物」の意味・わかりやすい解説
人工鉱物 (じんこうこうぶつ)
artificial mineral
人造鉱物man-made mineralともいう。天然に産出する鉱物と同一の成分,構造,組織を,化学的・物理的手法で達成したものをいい,構造,組織が天然鉱物と同一で,成分,組成を異にする無機固体,あるいはさらに広く一般の無機固体も含める場合がある。合成鉱物synthetic mineralはほぼ同義に用いられるが,溶融再結晶化であるルビーやダイヤモンド製作は,厳密にいえば合成ではない。
鉱物,特に宝石,貴石の人工鉱物化はかなり古くから試みられたが,実質的に開始されたのは近代化学の勃興と軌を一にし19世紀からである。特に有名なものは,ルビー,ダイヤモンド,水晶の研究である。ルビーの研究はフランスのベルヌーイA.V.L.Vernuilにより行われ,火炎溶融法(ベルヌーイ法)によって19世紀末に成功している。ダイヤモンドの研究は19世紀にイギリスのハネーJ.B.HannayおよびフランスのF.F.H.モアッサンにより開始され,両者とも成功したと発表したが,現在では成功とは考えられておらず,1955年になってアメリカのGEグループならびにスウェーデンのASEAグループにおいて超高圧高温を使用して完成された。水晶は1900年ころ,イタリアのスペッチアG.Speziaによって熱水法による研究が開始され,ドイツに引き継がれ,結局大量生産にこぎつけたのは第2次大戦後,アメリカのウォーカーA.C.Walker,ホールD.R.Haleらによってである。この3者とも最初は宝石が目的であったが,現在ではいずれも工業用材料として大量に製造されている。ルビーおよびその同種であるサファイアは,軸受やてんびんの支点,シリコンデバイス用基板や時計のガラスの硬質化などに寄与している。人工ダイヤモンドはほぼ全量が工業用として生産され,研磨・研削用の70%を超えるに至った。水晶もほぼ全量が発振子用や光学用に使用され,天然品をはるかに上回っている。
最近では,オパール,エメラルド,スタールビー,キャッツアイ,アレキサンドライトなども人工鉱物化され市販されている。宝石級ダイヤモンドは,コスト的に引き合わず実験のみである。
人工的に製作されたものが後に天然に見いだされた例としてはコーサイト(水晶の高圧相の一つ)がある。また研磨材として用いられている炭化ケイ素SiCも合成が天然の発見よりもはるかに早い。一方,天然に存在する鉱物で少量置換されているものから天然には存在しない端成分を推定製作したものにイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)Y3Al5O12およびその派生結晶のイットリウム・アイロン・ガーネット(YIG)Y3Fe2(FeO4)3,ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)Gd3Ga5O12がある。YAGはレーザー用,YIGはマイクロ波素子,GGGはバブル記憶素子の基板として使用されている。このような例としては,ヒ化ガリウムGaAs,リン化ガリウムGaPのような半導体材料,酸化ニオブリチウムLiNbO3や酸化タンタルリチウムLiTaO3のような素面波素子用材料があり,このほか電子材料に多くみられる。ケイ素Siもダイヤモンドと同形で人工鉱物として扱われることがある。
→結晶成長 →宝石
執筆者:高須 新一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報