翻訳|emerald
濃緑色をした緑柱石の別名。翠玉(すいぎょく)、緑玉(りょくぎょく)ともよばれる。緑色の原因は、少量含まれる三価のクロムやバナジウムのためである。宝石としてきわめて価値が高い。しかし、均一な色、内部に曇りやひびのない良質なものはまれである。緑柱石やアクアマリンと同様、花崗(かこう)岩質ペグマタイト中に産するほか、交代変成作用を受けた石灰岩や雲母(うんも)片岩中に発見される。宝石としての価値をもつものは、おもにコロンビアとロシアのウラル山脈から採掘される。コロンビアでは、交代変成作用を受けた黒色の石灰岩を切る方解石脈中に結晶が生成している。ウラル山脈では、雲母片岩中に結晶が含まれて産する。ほかにブラジル、ザンビア、ジンバブエなどから産する。
エメラルドは合成ができ、天然産と変わらないか、あるいはそれ以上のりっぱなものが宝石市場に出回っている。酸化物の混合物やエメラルドと同成分の非晶質物質を用いて、フラックス法とよばれる融剤から単結晶を析出させる合成と、アクアマリンを種石とした熱水法による合成とが主たる方法で、いずれの場合も緑色を出すため1%前後の酸化クロムを混入する。見た目には天然のものと合成のものとは区別不可能だが、複屈折や赤外吸収スペクトルなどを調べることにより違いが識別できる。エメラルドの語源はおそらくセム語からきたものとされているが、古代ではいろいろな緑色の石に対してこの名を使っていたらしい。5月の誕生石である。
[松原 聰]
『春山行夫著『春山行夫の博物誌4 宝石1』(1989・平凡社)』▽『崎川範行著『カラーブックス宝石』(1992・保育社)』▽『諏訪恭一著『宝石――品質の見分け方と価値の判断のために』(1993・世界文化社)』
ベリル(緑柱石)Be3Al2(SiO3)6のうち,微量なクロムの含有によって鮮やかな緑色を示すものをいう。和名は翠玉。最古の宝石取引市場として知られるバビロンには,紀元前4000年の当時,すでにエメラルドが現れていたと伝えられる。女王クレオパトラもこの宝石を愛好し,彼女が所有していたといわれる鉱山の遺跡がある。鮮やかな緑色は新緑の候を思わせ,5月の誕生石となり,希望と幸福の象徴でもある。南アメリカのアンデス山中で大部分を産出し,とくにコロンビア産が品質・量ともに世界第1位。それに次ぐのがブラジルで,新産地の発見により良質石の産出が増加している。古い産地としてはソ連(現,ロシア)のウラル山中やインドが知られているが,現在の量はわずかである。アフリカでは,タンザニア,ジンバブウェのほかザンビア,モザンビークが知られている。エメラルドの合成は1940年代にアメリカで成功し,フランス,ドイツ,オーストリア,ロシア,日本などでも盛んに行われている。
執筆者:近山 晶
ヘルメス・トリスメギストスの手になるとされる伝説的な錬金術文書の一つに《エメラルド碑板》(ラテン語で《タブラ・スマラグディナ》)というのがあるように,エメラルドはその美しい緑色の光輝のために,古来,もっとも貴重な石とみなされてきた。多くの効能があるとされたが,その中でもいちばん知られているのは,目のために良いという説であろう。大プリニウスは《博物誌》第37巻のなかに,〈わたくしたちは緑色の草や葉をむさぼるように眺めるが,同じ緑色といっても,エメラルドに比すべき良質のものはどこにもないので,これ以上目にここちよい色はない〉と書いている。また〈エメラルドの平べったい形をしているものは,鏡のように物の姿を映し出す〉として,〈皇帝ネロは1個のエメラルドのなかに剣闘士たちの闘技を眺めた〉と書いている。この文脈から判断すると,どうやらネロは一般に信じられているように,エメラルドを眼鏡として使ったのではなく,平べったいエメラルドの表面に闘技場の光景を映して眺めたらしい。戸外の光の反射で,目がまぶしいのを防ぐためだろうか。
中世の民間伝承では,エメラルドを舌の上にのせておくと,悪魔を呼び出したり悪魔と話をしたりすることができるとされた。またカルダーノによれば,エメラルドを左の腕につけておくと,悪魔の魔力に迷わされることがないともいう。これを要するに,エメラルドはもっとも強力な〈タリスマン(護符)〉として中世のあいだ珍重されていたのだった。古代インドでは,エメラルドはルビーとともに,シバとカーリーの神像の額を飾る宝石である。聖書の《ヨハネの黙示録》4章3節に〈その座したまうものの状は碧玉,赤メノウのごとく,かつ御座のまわりには緑玉のごとき虹ありき〉とある〈緑玉〉も,エメラルドのことにほかならぬ。魔王サタンが天から落ちてきたとき,その王冠から落ちたのがエメラルドだったという伝説もある。また〈聖杯伝説〉で騎士たちが探究する聖杯も,巨大なエメラルドを刻んだ容器と考えられていた。オウィディウスの《転身物語》第2巻には〈フォエブスは輝くエメラルドの玉座にすわっていた〉とあり,ダンテの《神曲-煉獄篇》第31歌では,黙示の鏡としてのベアトリーチェの目がエメラルドになぞらえられている。中世の錬金術師たちはまた,エメラルドを〈5月の露〉とも呼んだらしい。
執筆者:澁澤 龍
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深緑色の透明な緑柱石で,硬度は石英よりやや高く,色は安定なので,古来,もっとも高価な宝石の一種として珍重されてきた.普通,幅広いく形のテーブル面とこれを囲む細長い多数のく形面と,その四隅を切ったエメラルドカットに細工される.雲母片岩など結晶片岩中(ウラル地方)や大理石中の脈(コロンビア地方)などとして産出する.緑色は微量含まれるCrに起因している.人工的には水熱合成法やフラックス法によって合成される.[別用語参照]合成エメラルド
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…なお,鉱物としてのベリルは〈緑柱石〉の項を参照されたい。ベリルには,エメラルド,アクアマリン,モルガナイト,ヘリオドール,イェロー・ベリル,ゴッシェナイトがおもな宝石としてある。緑色のエメラルドと海水青色のアクアマリンはとくに珍重される。…
※「エメラルド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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