1960年代から70年代にかけて隆盛を誇った東映やくざ映画の後期を代表する人気シリーズ。1973年の《仁義なき戦い》から始まり,同題名をシリーズ名として同年の《広島死闘篇》《代理戦争》,翌74年の《頂上作戦》《完結篇》と,計5本つくられた。いずれも菅原文太の演ずる広能昌三を主人公に,広島,呉における激烈な暴力団抗争を実録ふうに描くもので,第1作の第2次世界大戦直後から第5作の1970年まで時代を追ってドラマが展開し,全5作で一つの大河ドラマを形づくっている。監督はいずれも深作欣二(1930-2003)。脚本は前4作が笠原和夫,第5作のみ高田宏治。なによりの特色は現代やくざの対立,抗争をなまなましく描く点にあり,細密な構成,短いカット割りと手持ちカメラによる撮影を大胆に用いた画面づくり,凄惨な暴力描写のもと,暴力組織の複雑な人脈図と権力関係,そこでの非情冷酷な策謀と野合と裏切りが,迫力たっぷりの欲望のドラマとして繰り広げられて,衝撃をもたらした。やくざの仁義を貫こうとして苦悩する広能昌三が主人公になっているとはいえ,実質的には群像ドラマであり,毎回,暴力に生き暴力に死ぬ男たちの姿が,松方弘樹,梅宮辰夫,北大路欣也,千葉真一などの主演級スターや,渡瀬恒彦,成田三樹夫,田中邦衛,加藤武,宍戸錠などの脇役陣によって多彩に演じられ,そのなかで狂言回し的な広能昌三の姿と対比的に,あらゆる策謀の手段をつくして生きのび肥え太っていく〈政治的人間〉山守義雄組長の人物像が,金子信雄の名演もあって,真の主人公のように浮かび上がってくる。原作は,実在の暴力団抗争の渦中を生きた美能幸三の手記に基づく飯干晃一のノンフィクション小説《仁義なき戦い--広島やくざ・流血20年の記録》。
このシリーズの成功によって,東映やくざ映画の流れは,それまでの〈任俠路線〉から,暴力団抗争を題材にした〈実録路線〉へ一変した。このシリーズの魅力は,暴力団抗争史に重ねて戦後青春の行方を描出した点にもあり,虫けらのように利用され殺される若いちんぴらたちの姿には,戦後の奈落を生きた無名の青春群像のうめきがうかがえる。深作欣二はこのあと,そうした青春の極北の像を刻んだ傑作《仁義の墓場》(渡哲也,多岐川裕美主演。1975)をつくって,彼の〈戦後史〉を閉じたかにみえる。なお,菅原文太の主演,深作欣二の監督のもと,《新・仁義なき戦い》(1974)としてリメークされ,原作を離れた別シリーズの形で《組長の首》(1975),《組長最後の日》(1976)と,3本続いた。
→やくざ映画
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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