(1)行政上の強制執行の手段の一つ。行政代執行ともいう。法律や条例により,または行政処分によって命ぜられた代替的作為義務を国民が履行しない場合に,行政庁がみずから義務者のなすべき行為をなし,または第三者になさしめ,その費用を義務者から徴収する手段である。代執行の要件や手続について定める一般法として行政代執行法(1948公布)があるが,建築基準法9条12項,土地収用法102条の2-2項など,代執行に関する特別法の規定もある。代執行は,代替的作為義務,すなわち,他人の代わってなすことのできる作為義務についてのみ可能であり,非代替的作為義務や不作為義務については代執行はありえない。河川法75条1項,道路法71条1項などによって命ぜられた工作物の除却,河川・道路の原状回復の義務,土地区画整理法76条4項により命ぜられた建築物の移転・除却の義務などは,代執行に適する典型的な義務であり,実務上もこれらについて代執行が行われることが多い。
代執行は,義務者が義務を履行しない場合において,他の手段によってその履行を確保することが困難であり,かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる場合に限って行われる(行政代執行法2条)。行政庁は,代執行をなすには,相当の履行期限を定め,その期限までに義務の履行がなされないときは代執行をなすべき旨を,あらかじめ文書で戒告しなければならず,義務者がその期限までに義務を履行しないときは,代執行令書をもって,代執行をなすべき時期,代執行のために派遣する執行責任者の氏名および代執行費用の概算見積額を義務者に通知しなければならないが,緊急の必要があるときは,これらの事前手続をはぶくことができる(3条)。代執行の実施のために現場に派遣される執行責任者は,その身分を示す証票を携帯し,要求があれば呈示しなければならない(4条)。代執行に要した費用については,義務者にその納付を命じるが,任意に納付しないときは国税滞納処分(滞納処分)の例により徴収できる(5,6条)。代執行の戒告,代執行令書による通知および代執行費用の納付命令については,不服申立てや取消訴訟を行うことができる。
(2)行政組織法上,上級庁が下級庁の事務を代行することを代執行と呼ぶことがある。上級庁による下級庁の事務の代行権は,上級庁の監督権のなかに当然に含まれているものではなく,法規の根拠が必要である。地方自治法146条は,都道府県知事・市町村長に機関委任された国の事務の管理・執行が法令もしくは主務大臣・都道府県知事の処分に違反し,またはその管理・執行を怠る場合に,主務大臣・都道府県知事が,職務執行命令訴訟の手続により,裁判所の確認があったときに限り事務の代行をなしうることを認めている。
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行政法上の代替的作為義務に関する強制執行方法。行政上の強制手段の主たる方法。行政代執行法(昭和23年法律第43号)が定める。法律(法律の委任に基づく命令、規則、および条例を含む)により直接命じられ、または法律に基づき行政庁により命じられた行為(他人がかわってなすことのできる行為に限る)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってはその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、または第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。条例に基づく事務も対象となる。たとえば、普通河川管理条例、草刈り条例などに基づく違反物件や雑草の除去命令の執行などがそうである。
行政上の義務(行政法規によって課された義務)のみを対象とし、役所の庁舎の使用許可が取り消された後の明渡し義務など、私法上の義務は代執行の対象にならない。代執行をなしうるのは、他人がかわってなしうる義務、つまりは代替的作為義務(違反建築物や不法占有物件の除却など)に限り、非代替的作為義務(予防接種を受ける義務など)、不作為義務(許可を受けずに営業しない義務など)は代執行の対象とならない。
義務者が義務を怠ることにより公益に著しく反する場合には、代執行をなしうるのが普通で、他の手段による履行の困難という要件は実際上機能していない。
代執行の手続は、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされていないときは代執行をなすべき旨をあらかじめ文書で戒告するという方法による。義務者が期限までに義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもって、代執行をなすべき時期、代執行の責任者の氏名、代執行に要する費用の概算による見積額を通知する。執行責任者は証票を携帯しなければならない。代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額および納期日を定め、義務者に対し文書をもってその納付を命じなければならない。その納付がないときは、国税滞納処分の例により、(民事訴訟の方法ではなく)行政上の強制徴収の方法によって徴収することとなる。
また、上級機関が下級機関の権限に属する事務を監督権の発動として自ら行うことも代執行といい、法律の根拠を必要とする。
なお、国の地方公立団体に対する法的受託事務の執行の強制方法については、職務執行命令訴訟の制度が置かれている(地方自治法245条の8)が、一部の法律では代執行制度が置かれている。
[阿部泰隆]
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…その代表的なものは,国税徴収法による国税滞納処分であり,納税者が国税を納期限までに完納しない場合に,督促を前提として,財産の差押え,差押財産の換価,換価代金等の配当という順序で滞納処分が行われる。地方税,代執行の費用,地方公共団体に納付すべき過料や法律で定める一定の使用料などについても,類似の方法による強制徴収が認められる。(2)作為,受忍,不作為の義務についての執行については,かつて行政執行法(1900公布)が,ドイツの法制をモデルとして,代執行,執行罰,直接強制の3種の手段を一般的に認めていたが,それに代わって1948年に公布された現行の行政代執行法は,代執行を一般的手段として認めるのみで,執行罰や直接強制は,現在では一般的手段としては認められず,特別な場合に限って特別法によってわずかに認められるにすぎない。…
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