日本大百科全書(ニッポニカ) 「職務執行命令訴訟」の意味・わかりやすい解説
職務執行命令訴訟
しょくむしっこうめいれいそしょう
2000年(平成12)の地方分権改革まで置かれていた、国の機関として国の機関委任事務を管理執行する、都道府県知事または市町村長に対する国の監督手続の制度。マンデーマス・プロシーディングmandamus proceedingともよばれ、司法的執行の原則をとるアメリカ法に倣って導入された制度である。行政事件訴訟法上は機関訴訟に分類される。
従来、都道府県知事または市町村長は当該普通地方公共団体の事務(いわゆる自治事務)のほかに、法令によりその権限に属する国などの事務(機関委任事務)を処理した。都道府県知事や市町村長が国の事務の管理執行につき、法令なり大臣(市町村長の場合さらに知事)の命令に違反し、またはその管理執行を怠るときは、国はこれを監督する必要がある。しかし、知事や市町村長は住民の公選により選ばれたものであるから、通常の下級官庁に対する監督のようにただちに、その権限をかわりに行使(代執行)することは適当ではない。そこで、代執行の前に裁判手続による客観的かつ公正な判断を導入したのである。手続は、都道府県知事に対する場合も市町村長に対する場合も同じである。
都道府県知事に対しては、まず主務大臣が文書をもって違法なり懈怠(けたい)の事実を指摘し、期限を定めてその行うべき事項を命令する。知事がこの期限内に当該事項を行わないとき、大臣は高等裁判所に対し当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。高等裁判所は15日以内に両当事者を呼び出して審理を行い、主務大臣の請求に理由があると認めるときは、知事に対し期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。主務大臣は知事が上記の裁判に従わないときは、知事にかわって当該事項を行うことができる。市町村長に対しては、都道府県知事が上記の裁判を求める。
以上は従前の制度であるが、1999年の地方分権一括法による地方自治法の大改正で、機関委任事務はすべて地方公共団体の事務となった。しかし、それは自治事務と法定受託事務に分けられ(2000年施行)、法定受託事務については、違法などがあるときは大臣の方から是正の指示、さらに代執行をすることができるが、代執行の前に裁判所の判断を介在させる職務執行命令訴訟手続が残されている(地方自治法245条の8)。この点で従来と変わりはない。
[阿部泰隆]