国民が公法上の金銭債務を納期限までに任意に履行しない場合に,国または地方公共団体が,強制的手段を用いて,その債務が履行されたと同様の結果の実現をはかること。〈行政上の強制徴収〉ともいう。民事上の強制執行の場合には,自力救済禁止の原則が働き,私法上の債権の存在と金額についての裁判所の判断を経たうえで,司法機関による履行の強制を求める必要があるが,強制徴収の場合には,法の定めるところに従い,債権者である行政庁がみずから強制執行をなしうる点に特色をもつ。自力執行権と呼ばれるこのような権能は,行政庁に当然に与えられるわけではなく,法律上の明文の根拠がある場合に限ると解されている。したがって,公法上の金銭債権の強制徴収について,とくに法律の規定がないときには,私法上の債権と同様,民事訴訟手続を経たうえで,司法機関に強制執行を求めることになる。国税徴収法(1959公布)で定める滞納処分は,強制徴収の具体的手段である。同法上の滞納処分は,本来,関税・とん税・特別とん税を除く国税債権の強制徴収手続として定められたが,関税等および地方税ならびにその他の公法上の金銭債権についてもこの手続によるべきであると規定されている例が多く(関税法11条,地方税法68条6項,72条の68-6項),今では公法上の金銭債権一般に関する強制徴収手段となっている。滞納処分の手続では,まず,租税の滞納者(公法上の債務不履行者)に対して督促(履行の催告)を行う。それでも納税(債務の履行)がなされないときには,国または地方公共団体は,みずから(租税)滞納者(公法上の債務不履行者)の財産を差し押さえ,公売等の手続でこれを換価し,換価代金を租税(公法上の債権)に充当して租税等の公法上の債権の満足をはかることができる。この過程で,公法上の債権と私法上の債権の優劣がしばしば問題とされるが,現在の国税徴収法は,旧国税徴収法(1897公布)のもとで国税債権に与えられていた大幅な優先権を若干緩和し,私法秩序との調整をはかっている。
→滞納処分
執筆者:玉国 文敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
行政法上、国民が国・地方公共団体に対して負う金銭給付義務を履行しない場合に、行政庁が裁判所に訴えることなく、自ら債務者の財産を換価して前記の義務が履行されたのと同じ状態を実現するための作用をいう。法律による行政の原理により法律に基づいてのみ認められる。強制徴収を認める規定がない場合には、国・地方公共団体といえども一般原則により民事訴訟を提起し、債務名義(確定勝訴判決、仮執行宣言等)を得て初めて債権の実現を図ることができる。強制徴収を認める典型例は国税・地方税である。それ以外の債権について法律が強制徴収を認めようとする場合には、国税・地方税滞納処分の例により処分できると規定している。地方公共団体の有する債権については、分担金、加入金、過料は強制徴収の対象となるが、その他の使用料は強制徴収できる旨法律に規定があって初めてそれが可能である(地方自治法第231条の3第3項)。現実には強制徴収ができる旨規定している法律は少ないので、公営住宅の家賃、公立学校の授業料、水道料金など、強制徴収の対象とならない債権が多い。強制徴収の手続は、督促、財産の差押え、財産の換価、換価代金の配当の順に行われる。
[阿部泰隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 行政上の強制執行は,(1)租税等の金銭給付の義務についての執行と,(2)その他の義務,すなわち,作為,受忍,不作為の義務についての執行とに分類される。(1)国民が国や公共団体に対して負う租税やその他一定の金銭給付義務について強制執行手段として,強制徴収がある。その代表的なものは,国税徴収法による国税滞納処分であり,納税者が国税を納期限までに完納しない場合に,督促を前提として,財産の差押え,差押財産の換価,換価代金等の配当という順序で滞納処分が行われる。…
…このうち,租税徴収手続は,通常,租税の納付によって終了するが,納期限までに納付がなされない場合は,原則として督促がなされ,それでも租税が完納されない場合には,国または地方公共団体は,租税債権の強制的実現を図ることができる。これを,滞納処分(ないし,強制徴収)という。国税の滞納処分に関する一般法として国税徴収法があるが,関税,地方税の滞納処分は国税滞納処分の例によることとされており(関税法11条,地方税法68条6項等),また,他の公課についても国税滞納処分の例によるとされている場合がある。…
※「強制徴収」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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