養老令の私的注釈書。もと50巻と伝えるが,現存は35巻。しかしそのなかには,《令集解》ではない〈令私記〉(個人の著した令の注釈書)が3巻含まれている。編者は,9世紀末から10世紀はじめにかけて明法博士(みようぼうはかせ)に任じ,明法道(律令学)の重鎮と目されていた惟宗直本(これむねのなおもと)。編纂の時期は明らかではないが,860年代ころとみられる。直本は別に,養老律の注釈書として《律集解(りつのしゆうげ)》30巻を著したが,これは今日残されていない。
《令義解(りようのぎげ)》の編纂が公的事業として行われたのに対し,本書は私的に編したものであるが,先行の諸学説をそのまま引用することに重点をおいている点に,特徴がある。すなわちそれ以前に著された明法家個人の〈令私記〉は,それを著した本人の解釈を記述することに重点がおかれ,先行学説は,自説を補強するためか,あるいは批判の対象として引用されるのが通例であった。だが本書では,《令義解》の説をはじめ,〈古記云〉〈釈云〉などとして,これらの学説をそのまま引用し,直本の私見はきわめて控えめに加えられているにすぎない。このため時代別の令解釈学のありかたを知ることができ,今日研究者に本書が珍重される最大の理由となっている。なかでも重要なのは,738年(天平10)ころに成ったと推定される大宝令の注釈書〈古記〉であって,著者は不明だが,これによって大宝令の文章を部分的ながら知ることができる。〈釈云〉とする〈令釈〉以下はみな8世紀末から9世紀はじめにかけて成った養老令の注釈書で,成立の古い順にみると,〈釈云〉はその著者は不明だが半公的性格をもつ注釈書であり,〈跡云〉とする〈跡記〉は安都(あど)某の,〈穴云〉とする〈穴記〉は穴太内人(あなほのうちひと)の,〈讃云〉とする〈讃記〉は讃岐永直(さぬきのながなお)の〈令私記〉とみられている。以上は直本が座右において直接引用した〈令私記〉のおもなものであるが,間接的に引用されたものを含めれば,引用されている〈令私記〉の数はさらに多く,なかには唐の学者の〈令私記〉もある。《新訂増補国史大系》所収。
→大宝律令 →養老律令
執筆者:早川 庄八
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養老(ようろう)令の注釈を集大成したもの。現存残欠35巻。明法博士(みょうぼうはかせ)惟宗直本(これむねのなおもと)の編。9世紀なかばごろの成立という。ここに集められた令の注釈は、『令義解(りょうのぎげ)』をはじめとして「古記」(大宝(たいほう)令の注釈)、「令釈(りょうしゃく)」「跡記」「穴記」「朱記」などで、これらはみな丹念に字句に訓詁(くんこ)を施して法意を説明しており、異説をあげたり、慣行を記しているところも多い。「古記」には大宝令が引用されているため、現存しない大宝令の本文を知ることができ、また格(きゃく)、式(しき)、律付釈(りつふしゃく)、律集解(りつのしゅうげ)、弾例、八十一例などの古い法律書や、唐令などの中国の法律書も引かれているので、日本、中国の律令制の研究に重要な史料を提供している。現在、軍防令、倉庫令、医疾令、関市令、捕亡令、獄令、雑令の7編が伝わらない。刊本は『国市大系』所収のものがもっとも優れ、欠けた7編の逸文を集め、所収法令の編年索引を付収している。
[皆川完一]
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養老令の私撰注釈書。「令義解(りょうのぎげ)」をはじめ古来の令注釈書を集成したもの。もと50巻と伝えるが,現存するのは35巻(うち3巻は本来のものではない)。「本朝書籍目録」によれば明法博士惟宗直本(これむねのなおもと)の撰。引用されている格式(きゃくしき)が弘仁のものなので貞観年間(859~877)前半以前の成立か。「令義解」の施行により令文解釈は一定したが,これにより多くの学説がうずもれることを恐れた直本が集大成したといわれている。引用されているおもな注釈書には,「古記」「令釈」「跡記」「穴記」「讃記」「物記」「伴記」などがあり,唯一の大宝令注釈書である「古記」は重要である。「国史大系」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…これは,かつて文徳天皇から〈律令の宗師〉とたたえられた讃岐永直(さぬきのながなお)が,その晩年にやはり私第で律令を講じた先例を襲ったものである。著書に《律集解(りつのしゆうげ)》30巻(現存せず),《令集解(りようのしゆうげ)》(もと50巻か。一部現存),《検非違使私記》2巻(現存せず)があり,曾孫の允亮(ただすけ)が著した《政事要略》に引用されている《交替式私記》(2巻か)も直本の著と推定される。…
…文徳天皇に〈律令の宗師〉とたたえられ,晩年には私邸で律令講書を行うことを許された。《令集解》に引用されている《讃記》は永直が著した令私記。【早川 庄八】。…
※「令集解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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