(1)歌舞伎狂言。世話物。4幕7場。近松徳三作。1796年(寛政8)7月大坂藤川八蔵座(角の芝居)初演。福岡貢を2世中山文七,油屋お紺を初世芳沢いろは。同年5月に伊勢古市の遊廓で起こった殺人事件を脚色したもので,すでに同月には同じ題材を劇化した《伊勢土産菖蒲刀(いせみやげしようぶがたな)》が伊勢松坂で演ぜられ,また,8月には本作と並行して京山下秀次郎座で奈河篤助作の《いせみやげ川崎踊拍子(かわさきおんど)》が出されている。伊勢の御師(おし)福岡貢が主人筋に当たる若殿のために名刀青江下坂とその折紙とを悪人から取り返すまでの経緯を描いた作品。馴染の遊女お紺の心にもない愛想づかしを真に受けた貢が逆上のあまりに夜更けの廓で十人斬りに及ぶという3幕目の〈油屋〉が山場とされている。貢の役柄は典型的な辛抱立役で,上方系・江戸系2通りの型がある。舞台とされている伊勢の地方色と夏の季節感とに特色があり,夏狂言としての人気が高い。(2)人形浄瑠璃。世話物。(1)の狂言は1838年(天保9)7月,全3巻の人形浄瑠璃に脚色され大坂稲荷社内東芝居の勾欄にかけられた。ただし,現在では,1885年7月大阪稲荷彦六座上演のおりに2世豊沢団平夫妻によって改訂を施された〈油屋〉のみが演ぜられている。戯曲内容としては通俗的だが,団平の手になる精緻な節づけが秀逸で,特に十人斬りの場面の演奏などには歌舞伎を凌駕するものがある。
執筆者:原 道生
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歌舞伎(かぶき)劇。世話物。4幕。近松徳三(とくそう)作。通称「伊勢音頭」。1796年(寛政8)7月大坂・角(かど)の芝居で初演。同年5月、伊勢古市(ふるいち)の「油屋」で医師孫福斎(まごふくいつき)がなじみの女のことで9人を殺傷した事件を、ただちに脚色した際物(きわもの)劇だが、のち夏芝居の人気狂言になり、とくに眼目の三幕目「油屋」は縁切りから殺しへの段取りと技巧が洗練され、独立して上演されることが多い。伊勢の御師(おし)福岡貢(みつぎ)は旧主の息子今田万次郎のため、銘刀青江下坂(あおえしもさか)の詮議(せんぎ)に苦心し、ようやく刀を手に入れるが、貢の愛人油屋のお紺は刀の折紙(おりかみ)を藍玉屋(あいだまや)北六から奪うため、北六になびくとみせて貢に愛想づかしをする。怒った貢は下坂の刀で北六や仲居万野(まんの)など多くの人を殺し、切腹しようとするが、お紺と旧臣の料理人喜助に止められ、刀と折紙を持って万次郎のもとへ向かう。
ほかに、序幕(相の山、妙見(みょうけん)町宿屋、追駈(おっか)け、二見ヶ浦)は、貢が刀の盗賊杉山大蔵、桑原丈四郎を取り押さえるまで、二幕目(太々講(だいだいこう))は、貢が太々講の金を盗んだ罪を着せられようとするのを伯母お峰に救われる話で、まれに通しで上演されることもある。なお、「油屋」は義太夫(ぎだゆう)、常磐津(ときわず)にもなっている。
[松井俊諭]
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