明治から昭和時代の官僚、政治家。安政(あんせい)4年5月7日、長崎に生まれる。英語を学び、1871年(明治4)上京して工部省電信寮の修技教場に入学した。長崎電信局、兵庫県訳官を経て1876年ふたたび上京。伊藤博文(いとうひろぶみ)の知遇を得て工部省に採用され、以後、伊藤のもとでその能力を発揮していった。1882年伊藤の憲法調査に随行して渡欧し、帰国後、大日本帝国憲法の起草に従事。1889年以降、枢密院書記官長、第二次伊藤内閣の書記官長、第三次伊藤内閣の農商務大臣を歴任し、政党工作に活躍した。1891年から1904年(明治37)にかけて東京日日新聞社社長。1899年枢密顧問官となって以後は、山県有朋(やまがたありとも)系の官僚政治家として政界の裏面で暗躍した。1917年(大正6)臨時外交調査会委員となり、単独シベリア出兵論を主張。また、親政友会的立場にたって、1927年(昭和2)の金融恐慌の際に若槻礼次郎(わかつきれいじろう)内閣を攻撃して倒壊させ、1930年のロンドン海軍軍縮条約問題でも強硬外交を支持して、浜口雄幸(はまぐちおさち)内閣を激しく攻撃した。昭和9年2月19日死去。「伊東巳代治文書」は、現在国立国会図書館が所蔵している。
[大日方純夫]
『晨亭会編・刊『伯爵伊東巳代治』2巻(1938)』
明治~昭和前期の官僚政治家。長崎の生れ。英学を修め,上京して工部省電信寮の官費生となる。1873年兵庫県訳官となったが,76年工部省に出仕,参議兼工部卿伊藤博文の知遇をうける。内務省,太政官,参事院に転じ,82年伊藤の憲法調査に従って渡欧した。帰国後,制度取調局御用掛として華族令はじめ立憲制移行にともなう法制整備に当たるとともに,85年伊藤を補佐して天津条約の締結に努めた。第1次伊藤内閣では首相秘書官として井上毅らとともに憲法や衆議院議員選挙法など憲法付属の法典の起草に当たり,89年からは枢密院書記官長としてそれら法典の審議を促進した。92年第2次伊藤内閣の書記官長となり議会工作に手腕を発揮し,第3次伊藤内閣には農商務大臣として入閣したが,自由党との提携が破綻したため責任を負って辞任した。1900年伊藤の政友会結成を周旋したが入党せず,このころから山県有朋や桂太郎らへの接近度を深めた。1899年に枢密顧問官となって以後,しだいに枢密院内での発言権を強め,1917年寺内正毅内閣下で臨時外交調査委員会の委員となってシベリア出兵問題を議し,27年の台湾銀行救済問題では政府案を否決して若槻礼次郎内閣倒壊の因をつくり,30年ロンドン海軍軍縮条約批准には浜口雄幸内閣に批判的な立場をとり,みずから明治憲法の守護者を任じながら政友会寄りの路線をとった。
執筆者:宇野 俊一
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明治〜昭和期の官僚政治家,伯爵 農商務相;枢密顧問官;東京日日新聞社長。
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1857.5.7~1934.2.19
明治~昭和前期の官僚・政治家。肥前国長崎生れ。伊藤博文のもとで大日本帝国憲法など法典の調査・起草にたずさわった。枢密院書記官長をへて,1892年(明治25)第2次伊藤内閣の内閣書記官長。日清戦争では全権弁理大臣として批准書を交換。その後枢密顧問官となり,1903年には帝室制度調査局副総裁として皇室令を制定。原敬時代の政友会には理解を示す態度をとった。17年(大正6)臨時外交調査委員会委員となり,政府の方針を批判した。27年(昭和2)の金融恐慌に際し,台湾銀行救済緊急勅令案を枢密院で否決させて第1次若槻内閣総辞職の要因を作り,30年のロンドン海軍軍縮条約でも批准反対の論陣をはった。日記の一部が写本で伝わる(「翠雨荘(すいうそう)日記」)。
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