ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伊藤正男」の意味・わかりやすい解説
伊藤正男
いとうまさお
[没]2018.12.18. 東京
神経科学者,東京大学名誉教授。1953年東京大学医学部卒業後,東京大学医学部助教授を経て 1970年同大学教授,同医学部長(1986~89)。1989年理化学研究所国際フロンティア研究システムに移り,理化学研究所脳科学研究センター所長(1997~2003),同特別顧問などを歴任。また,日本学術会議会長なども務めた。小脳の片葉が前庭動眼反射(頭が動いたときに,網膜に映る像がぶれないように働く反射)の経路に直接つながっているとの発見(1970)に基づき,視覚によって伝えられる網膜の誤差信号を手がかりに,片葉は前庭動眼反射の動特性を修正する適応制御の中枢であるとの仮説を提唱(1972),やがてこれを実験で実証し,小脳の神経機構の研究に新生面を開いた。その過程で,「長期抑圧」と呼ばれる小脳特有のシナプス可塑性(シナプスの信号を伝える効率が長期間変化する性質)機構の存在を明らかにし,運動学習を司る小脳における学習の仕組みについて根本的理解をもたらした。さらに,小脳が運動だけでなく,潜在的な心の働きである認知機能でも重要な役割を果たしているという新しい小脳観を発表した。1981年藤原賞,1986年日本学士院賞・恩賜賞を受賞,1996年文化勲章,1998年レジオン・ドヌール勲章を受章した。
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