長野県天竜川沿い伊那谷(いなだに)で歌われてきた民謡。今日では、大正時代の初め天竜川下り舟遊びの観光宣伝に一般から募集した際の入選作「天竜下ればしぶきにぬれる……」という歌詞で代表されるが、これよりもっと古いものがある。「木曽(きそ)へ木曽へとつけ出す米は 伊那や高遠(たかとお)のお蔵米(くらまい)……」の歌詞で始まるこの『伊那節』の源流は、信濃(しなの)国(長野県)や隣り合わせる国々の山間部で、祝い唄(うた)、労作唄、盆踊り唄として歌われていた『御岳山節(おんたけさんぶし)』である。元禄(げんろく)年間(1688~1704)木曽谷と伊那谷とを結ぶ権兵衛(ごんべえ)峠が切り開かれてから『御岳山節』は馬子や宿場の女たちによって広められた。明治時代末、長野市で開催された共進会で公開され、以後『伊那節』の名で全国的に有名になった。
[斎藤 明]
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