静岡県西部にあった旧市名。現在は浜松市の中部にあり、天竜区の南部を形成する地域。天竜川中流部とその支流の阿多古(あたご)川、二俣(ふたまた)川、気田(けた)川の流域を占める。旧天竜市は、1956年(昭和31)二俣町と光明(こうみょう)、竜川(たつかわ)、熊(くま)、上阿多古、下阿多古の5村が合併し二俣町となり、1958年市制施行、天竜市と改称。2005年(平成17)周辺10市町村とともに浜松市と合併。赤石(あかいし)山脈南縁の高峻(こうしゅん)な山岳群に囲まれ、中央構造線の南東部にあたり、赤石裂線とよばれる平行断層線が南北に走る。地域の大部分はその西側で、天竜川が中央部を南流する。古くから遠江(とおとうみ)(静岡県)と信州(長野県)をつなぐ交通の中心地で、天竜浜名湖鉄道、国道152号、362号などが通じる。地域の82%が山林で、スギ、ヒノキの人工林は80%を占め、製材、木工加工業が主産業。二俣地区は木材の集積地、製材工業の中心地。船明(ふなぎら)は、江戸時代に榑木(くれき)(板材)を筏(いかだ)に組み、川下げする船筏番所が置かれ、木材の集散中心地であった。鹿島地区に自動車部品・計器工場が進出し、過疎化の防止役を担っている。農業は茶とシイタケの栽培が中心。桜の名所鳥羽山(とばやま)公園、徳川信康(のぶやす)が自害した二俣城、船明ダム、天竜舟下りなどへの観光客も多い。懐山(ふところやま)で行われる民俗芸能「おくない」は「遠江のひよんどりとおくない」として国の重要無形民俗文化財に指定されている。
[川崎文昭]
『『天竜市史』全17巻(1974~2004・天竜市)』
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