改訂新版 世界大百科事典 「係り結び」の意味・わかりやすい解説
係り結び (かかりむすび)
奈良・平安時代(8~12世紀)の国語において,助詞の〈ぞ〉〈なむ〉〈や〉〈か〉が文中にあるとき,その文の終末部の活用語を連体形で終結し,〈こそ〉があるときは已然(いぜん)形,また,〈は〉〈も〉の場合は終止形で終結する,その助詞と活用形との呼応の関係をいう。鎌倉時代の《手爾波大概抄(てにはたいがいしよう)》や連歌師に注意されていたが,江戸時代に本居宣長が古歌に例を求めてその法則性を立証し,《詞玉緒(ことばのたまのお)》を著した。宣長は〈の〉〈何〉も係りの辞と認めたが,萩原広道が《手爾乎波係辞弁(てにをはかかりことばのべん)》でその誤りを正した。〈ぞ〉〈なむ〉〈や〉〈か〉の文末が連体終止となるのは,それらの助辞は本来,文末ではたらくものであったのだが,それを倒置して,係りの位置に置いたので,初めの文の連体形がそのまま末尾に残ったのである。例えば〈妹ぞ恋しき〉とは〈恋しき(ハ)妹ぞ〉の倒置に発した形であった。〈こそ〉の文末の已然形は,〈こそ〉を含む句が既定条件句となることに起源がある。〈なむ〉は会話や会話に準じる表現に多く用いられる。平安時代末に動詞の終止形が連体形にとって代わられたので,終止形と連体形とが同形となり,〈ぞ〉〈なむ〉〈や〉〈か〉の係りは滅びた。〈こそ〉の係りは,室町時代の末までつづいた。
執筆者:大野 晋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報