その前駆は,沿革的には中世地中海・北海貿易の発達にともなって金・銀の現送を節約する便益を提供する目的で振替銀行の発行した指図書にみられるが,近世になりロンドンの金匠が金貨・金地金の預り証として金匠手形goldsmith noteを発行,それが第三者間に授受された。銀行券はこれが発展したものである。その後,産業革命が進み銀行制度が発達するにつれて,銀行は商業手形の割引を通じて一覧払債務証書を発行した。これは銀行振出しの約束手形で,商人相互間で授受され流通した。それはやがて券面額が数種の一定金額に統一され,かつ小額化されたので,発券銀行自体の信用とともに,しだいに流通範囲を広げ,現在の銀行券の体裁をととのえていった。その後,イングランド銀行が設立され(1694),1844年ピール銀行法によって銀行の発券機能は同行に集中され,イングランド銀行券に強制通用力が与えられた。こうして現在のように銀行組織は中央銀行と預金銀行に分化することになった。他のヨーロッパ諸国もおおむね同じ推移をたどった。このように銀行券は,個々の銀行から中央銀行へと発行主体が変化したが,その信用供与を見返りに発行される点では共通であり,おもに政府財政の赤字補塡(ほてん)のために発行された政府紙幣とは基本的に異なる。
金本位制のもとでは銀行券は金貨と兌換(だかん)されるので,この兌換銀行券は金貨と同価値物である。その後1931年イギリスが金本位制を離脱すると,他の諸国もそれに追随し,ほとんどの国が管理通貨制に移行した。銀行券の金兌換は停止され不換銀行券となったが,いずれの国でも銀行券は引き続き無制限法貨として扱われ,国民の社会的信頼に支えられて最終支払手段としての機能を果たしている。
日本の銀行券の始まりは,1873年(明治6)開業の国立銀行が発行した国立銀行紙幣である。それは紙幣という名称がついていても,実質的には銀行券である。82年中央銀行としての日本銀行が設立され,国立銀行は銀行券発行の特権を失うことになった。日本銀行は,開業当初は当時濫発された政府紙幣と国立銀行紙幣の回収にあたり,84年制定の兌換銀行券条例によって翌85年5月初めて銀貨兌換の銀行券を発行した。そして政府紙幣と国立銀行紙幣は99年までに姿を消し,内地の流通通貨は日本銀行発行の兌換銀行券と補助貨幣に限られることになった。兌換銀行券の発行については,1888年同条例の改正によって正貨(銀貨)準備のほか一定の保証発行限度と制限外発行が認められる保証準備屈伸制限制度が採用された。97年貨幣法の制定によって金本位制に移行したが,第1次大戦中の1917年に停止,30年に再開(金輸出解禁)されたが,翌31年に再停止(金輸出禁止・金兌換停止)され,兌換銀行券は不換銀行券となった。32年保証発行限度は1億2000万円から10億円に引き上げられ,実質的に管理通貨制に移行した。41年銀行券の正貨準備発行と保証発行の区分が廃止され,最高発行額屈伸制限制度が採用された。さらに42年の改正日本銀行法によって銀行券の名称は日本銀行券(日銀券)に改められ,また最高発行額屈伸制限制度が恒久的制度と定められた。
1932年以降,赤字国債が毎年発行され,日本銀行がこれを直接引き受けたため,戦時中は日本銀行券は実質的には不換紙幣となったともいえる。戦後の49年度以降,均衡財政が堅持されたが,65年度以降,国債が発行された。今日まで市中消化の原則が貫かれているが,日本銀行は金融調整の見地から国債買いオペレーションを行っている。国債買いオペによる銀行券の供給がインフレーションをもたらすか否かは,その時々の総需要と総供給のバランス関係によるもので,一概にはいえない。しかし国債の大量発行の状態が長年にわたって続けられると,結局,銀行信用の拡大,通貨の過大供給となるおそれがある。
現在の発達した金融組織のなかで,貨幣ないし通貨としての機能は,銀行券・補助貨幣といった現金通貨のみならず,当座預金・普通預金などの預金通貨,さらに定期預金などの準通貨ももっている。これらは統計用語でマネー・サプライと呼ばれ,その範囲によってM1,M2,M3などの種類がある。銀行券はマネー・サプライ全体のなかではその一部分にすぎないが,最終の支払手段として通貨流動性の立体構造においては中核的な地位にある。すなわち,銀行券は補助貨幣・日銀預け金とともにハイパワード・マネーを構成し,銀行の信用創造の基礎となっている。
→紙幣
執筆者:石田 定夫
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今日の代表的な現金通貨であり、法的には銀行が発行する自己宛(あ)て債務証書。もともとは金本位制度において要求ありしだい金を支払う約束をした民間発券銀行の債務証書であるから、民間銀行が発行した兌換(だかん)銀行券として銀行券の所有者はいつでも金と交換できる権利を保障されたものであった。その後、金本位制度は廃止されて現行の管理通貨制度に移行されると、兌換銀行券は姿を消し、金との交換がない不換銀行券となった。
現在では、中央銀行のみが銀行券を独占的に発行することを法的に認められているため、中央銀行券のことをさし、無制限通用力を有する法貨である。支払完了性に優れた代表的な現金通貨として、マネーストックの基礎となっている。
[金子邦彦]
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…このことは,後に述べるように,貨幣の制度が発展した現代の経済においてもまったく同様にあてはまることである。 貨幣経済の発達は,商品貨幣から,銀行券,政府紙幣のようなそれ自体の使用価値はほとんどまったく存在しない表券貨幣へという移行を伴っているが,この表券貨幣が貨幣として流通しうるのも,上に述べた信認が存在するからである。表券貨幣に対するこの信認を維持するためのくふうとしてとられたのが,表券貨幣の裏づけとして,商品貨幣を位置づけるという本位制度であった。…
…貨幣ないし現金通貨について,その素材が金属か紙かによって鋳貨(硬貨)と紙幣に分類する見方がある。この分類によると,紙幣は広義に解されて,政府の発行する政府紙幣(狭義の紙幣)と銀行券(現在は中央銀行の発行する中央銀行券)が含まれる。しかしこの解釈は正確ではなく,政府紙幣と銀行券とは厳密に区分し,たんに紙幣というときには政府紙幣に限定するのがむしろ通説となっている。…
…日本銀行が日本銀行法に基づいて発行する銀行券。日本の中央銀行である日本銀行は銀行券発行の独占的権限を与えられており(発券銀行),日本銀行券は公私いっさいの取引決済に無制限に通用する無制限法貨となっている(〈法貨〉の項参照)。…
…国家が法律によって銀行券の発行限度額を規制するしくみのこと。また,発券制度の概念に本来含まれないが,これと密接に関連する銀行券の準備(発行保証),構成等一連の銀行券発行業務に関する法的規制を合わせ発券制度と総称されることも今日では見受けられる。…
※「銀行券」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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