証券会社が顧客に信用を供与して行う株式の売買取引。具体的には,顧客が株式の売買を行う際に,証券会社が売付株券または買付代金を貸与し,これによって現株または資金の全額をもたない者にも売買を可能にした取引である。信用取引の決済は,反対売買(信用買いの場合は転売,信用売りの場合は買戻しという)を行い差金の授受で済ますのが通例で,その意味では,第2次大戦前行われていた清算取引とも似ているが,証券会社間の売買はあくまで普通取引(4日目受渡し)の形をとっている点において,清算取引と異なっている。すなわち証券会社は売買成立の日から4日目の決済日に買付代金の貸付け(買付株券は担保にとる),または売付株券の貸付け(売付代金を担保にとる)を行って,それぞれ決済するものである。このほか決済において反対売買をせずに,売り付けた株券を提供してその代金を受け取り(現渡し),また買付代金を渡して買付株券を引き取る(現引き)こともできる。また,手持株の値下がり損を防ぐために売っておくという,いわゆる保険つなぎにも利用される。このような信用取引により,いわゆる仮需給が証券市場に導入されると,実需給しか存在しない場合に比べて価格の急激な変動が防止され,公正な価格形成と株式取引の円滑化が促進される。このように信用取引は現物取引(信用取引に対するのが現物取引であるが,清算取引に対しては実物取引という。その実態は両者とも同じ)の補完作用をなすもので,1951年に信用取引制度が認められた意義もここにある。信用取引を利用する顧客は,証券会社に対して〈信用取引口座設定約諾書〉および〈同意書〉(証券会社が当該預託証書を担保に供したり他人に貸し付けることに同意するもの)を差し入れることになっている。
信用取引の買付け(空買い)または売付け(空売り)が成立した場合,顧客は売買成立の日の翌々日の正午までに買付けまたは売付けの約定価格の30%(ただし約定価格の30%が30万円に満たないときは30万円)以上で取引所が定める率を乗じた額以上の金銭を委託保証金として差し入れなければならない。委託保証金は現金に代えて有価証券を預託することもできるが,この場合は,有価証券の種類ごとに一定の評価率を乗じて代用価格を算出する。これを代用掛目という。委託保証金率や代用掛目の率の引上げ・引下げにより,信用取引の規制・緩和ができる。各証券取引所は相場の過熱・鎮静化に応じて適宜これを行っている。もし,信用取引で買っている(売っている)株式が相場の変動により値下がり(値上がり)して,預託してある委託保証金から計算上の差損額を差し引いた残りが約定価額の20%を下回った場合には,損失計算が生じた日の翌々日の正午までに20%を維持するに必要な委託保証金を追加差入れしなければならない(その追加の委託保証金を追い証という)。なお,信用取引による買付顧客は,取引所の発表する料率による金利を証券会社に支払い,信用取引による売付顧客は,取引所の発表する料率による金利を証券会社から受けとる。またある銘柄について貸株が融資を上回り,品貸料が定められたときは,売付顧客から買付顧客へ品貸料(逆日歩という)が授受される。信用取引は,本来,証券会社自身の信用供与を前提とするが,自社でやりくりできない部分については証券金融会社が証券会社に信用供与に必要な現金または株券の貸与を行っている。この証券会社と証券金融会社との間の取引を貸借取引といい,広い意味では,この貸借取引を含めて信用取引といっている。
信用取引において,売り残(空売りされている株数)と買い残(空買いされている株数)の状態ないし関係を(信用の)取組みという。空売り・空買いともいずれ反対売買される運命にあるから,売り残の比率が高い場合,〈取組みがよい〉,逆に買い残の比率が高い場合,〈取組みが悪い〉という。また売り残,買い残ともに多いときは,〈取組みが厚い〉という。信用取引の取組みについて代表例をあげると,東証信用取引銘柄別残高が毎週水曜日に発表され,また貸借取引の取組みについては,同じく日証金残高が立会いのある日について毎日発表されており,投資家の参考に供されている。
貸借取引の対象になる銘柄が貸借銘柄であるが,一般にはこれを信用銘柄と呼んでいる。貸借銘柄(信用銘柄)に対し,貸借取引のできない銘柄を現物銘柄あるいは現物株という。各証券会社が信用を供与する銘柄は,原則として貸借銘柄(信用銘柄)に限定されているが,それ以外の市場第一部銘柄にまで広げているケースもある(現物信用という)。なお,信用取引同様に,保証金を差し入れて行う取引に発行日決済取引があるが,証券会社の信用供与を伴わない点において信用取引と異なる。
執筆者:堀内 俊男
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証券取引所における取引方法の一つ。金融商品取引法(および金融商品取引法第161条の2に規定する取引およびその保証金に関する内閣府令)では、証券会社が顧客に信用を供与して行う有価証券の売買であると規定されている。現在、株式売買における決済日の違いに基づく取引の種類には、普通取引、当日決済取引、発行日決済取引の3種類があり、普通取引がその中心となっているが、信用取引は、普通取引の決済方法の一つである。顧客は一定の委託保証金を積んで信用供与を受け、信用売り・信用買いを行い、受渡日に証券会社から買い代金または売り株券を借りて、普通取引として決済を済ませる。証券会社との貸借関係は、定められた期間内(制度信用取引の場合は最長6か月であるが、一般信用取引の場合には期限の定めはない)に反対売買によって売買差金を決済するか、あるいは信用買いの場合は買付け代金を支払い、現株を引き取る(現引き)か、信用売りの場合は売り株式を引き渡す(現渡し)かの方法で決済する。信用取引はアメリカの証拠金取引に倣ったもので、関西ではマージン取引ともよばれている。信用取引は実物取引とはいっても、実際には空(から)売り・空買いができるので投機性をもった取引といえる。第二次世界大戦前の清算取引にかわって、1951年(昭和26)6月から実施された。証券市場に仮需給をおこさせることによって、流通面での円滑化や拡大を図ったものである。信用取引は証券業者の信用供与が前提であるが、個々の証券業者は顧客のすべての需要に応ずることができないから、信用供与に必要な融資または貸し株を行う金融機関として、証券金融会社が設けられている。
[桶田 篤・前田拓生]
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(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)
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…(4)発行日決済取引 未発行株式の取引で,その株式が発行された後の一定の日に受渡しをするものである。なお,このほかに,証券会社が顧客に信用を供与して行う信用取引がある。証券会社は顧客から信用取引の注文を受けると,普通取引で売買を行い,あとには証券会社と顧客との間に貸借関係が残ることになる。…
…株式の売買取引の決済において現金と株券との現物で受け渡す取引のことで,信用取引に対する言葉。清算取引に対しては実物取引というのが一般的であるが,いずれにせよ,その実態は同じである。…
…取引所における売買取引の一種で,有価証券の清算取引と商品の清算取引とがある。実物取引(信用取引に対しては現物取引というが,実態は同じ)に対するもので,現物の引渡しのほか転売・買戻しによる差金決済もできる取引である。清算取引は現在商品取引所において先物取引という名称で行われているが,証券取引所での取引は,1945年の取引所再開に際してGHQの指示で禁止された。…
※「信用取引」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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