地域保健法に基づき、住民の疾病予防や地域の公衆衛生を図る目的で設置された行政機関。今年4月1日時点で都道府県や政令指定都市、中核市などに計約470カ所ある。医師や保健師、薬剤師らを配置。感染症対応のほか、難病対策、うつ病やアルコール依存症の相談、母子保健といった業務を担っている。飲食店や旅館の営業許可も行っている。
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疾病の予防、健康増進、環境衛生など、地域公衆衛生活動の中心となる公的機関であり、地域住民の生活と健康に重要な役割をもつ。「地域保健法」(昭和22年法律第101号、成立時の名称は保健所法。1994年改正により現名称となる)第5条では、各都道府県、政令で定める市および東京都特別区がこれを設置するとしている。2007年(平成19)4月現在、全国に518(都道府県立394、政令市立101、東京都特別区立23)の保健所が設置されている。なお、保健所はその性格によって都市型、農山漁村型、中間型、人口希薄地域型、支所型に分類されていたが、現在ではその区別はされておらず、保健所数はむしろ所管区域の拡大などのため減少している。
[春日 齊]
地域保健法第6条では、保健所は次に掲げる事項について指導およびこれに必要な事業を行うこととなっている。
(1)地域保健に関する思想の普及および向上、(2)人口動態統計その他地域保健にかかわる統計、(3)栄養の改善および食品衛生、(4)住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生、(5)医事および薬事、(6)保健師、(7)公共医療事業の向上および増進、(8)母性および乳幼児ならびに老人の保健、(9)歯科保健、(10)精神保健、(11)治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期の療養を必要とする者の保健、(12)エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防、(13)衛生上の試験および検査、(14)その他地域住民の健康の保持および増進。このうち、(6)の保健師活動は、保健所の起源をなすものであり、その国の事情に応じてそのあり方は独自の発展を遂げているが、いずれの国にあっても、活動の基本となったものは保健師事業であった。保健所は、地域保健の広域的・専門的・技術的拠点として、情報の収集・整理・活用・調査・研究・企画・調整機能の強化を図っている。
学校保健行政、労働衛生行政および環境保全行政に密接な関係をもちながら、一般衛生行政において、保健所の占める組織上の地位は次のとおりである。すなわち、都道府県においては、国(厚生労働省)―都道府県(衛生主管部局)―保健所―市町村の体系であるが、政令市および東京都特別区においては、その市長・特別区長に都道府県知事の有する権限を与え、保健所長を通じて前述のような事業を実施させることとし、国(厚生労働省)―政令市および特別区(衛生主管部局)―保健所という体系となっている。したがって、政令市および東京都特別区立の保健所は、都道府県知事の事業に加え、一般市町村長の事業もあわせ行うのが特徴である。たとえば、予防接種法による定期接種は市町村長が実施することとなっているため、都道府県立の保健所においては市町村の指導にとどまり、実施することはないが、政令市および東京都特別区立の保健所では、自ら実施するのが普通である。保健所の組織は、所長(医師に限られる)の下に総務課、衛生課、保健予防課、普及課の4課を置くのが一般的であるが、最近の経済社会の変動に伴い、規模と組織が多様化している。なお、保健所では医師、歯科医師、保健師、助産師、獣医師、栄養士をはじめとする多くの専門技術者によるチーム・ワークを必要とするため、職員の質と量を計画的に確保することが重要である。このため、国立保健医療科学院、国立環境研究所をはじめ、大学、研究所などにおいて養成訓練や研究協力が行われている。また、保健所には、地域の市町村や他の行政機関、医療関係者、学校、企業、一般住民代表などからなる運営協議会が置かれ、地域に、より密接した公衆衛生活動の推進が図られている。
[春日 齊]
1862年、イギリスのラスボーンWilliam Rathbone(1819―1902)がリバプール市を18の訪問看護地区に分けて、それぞれ1名の地区保健師を配置して母子保健事業を行い、これを中心として母子保健福祉相談所が設営されたのが保健所の起源とされる。日本では、1935年(昭和10)ロックフェラー財団の援助を得て、東京市京橋区(現東京都中央区)に都市保健館が、37年に埼玉県所沢(ところざわ)町(現所沢市)に農村保健館が設けられたのが始まりとされているが、これらモデル保健所の誕生は公衆衛生発展の歴史的必然性に基づくものといえる。すなわち、明治時代の末には、この時代を通じて焦眉(しょうび)の急であったコレラ、痘瘡(とうそう)(天然痘)をはじめとする検疫伝染病(1998年「感染症予防・医療法」公布に伴い「検疫感染症」と呼称変更)対策の態勢がようやく整えられ、大正時代になると、伝染病もしだいに赤痢、腸チフスなどの常在伝染病や結核、ハンセン病、トラコーマ、寄生虫などの社会的慢性疾患に焦点が移っていった。やがて、昭和に入ると富国強兵の国策上から、国民の体位向上、健康の増進を図るため母子保健と結核対策がとくに大きく取り上げられることとなった。これらの推進のためには、家庭訪問などの地域社会に密着した指導や積極的な健康増進の施策が必要とされ、保健師活動を中核とする結核予防に対する健康相談、妊産婦・乳幼児に対する健康相談などの普及を経て、モデル保健所の発足となった。引き続いて、1937年「保健所法」(旧法)が制定され、翌38年には厚生省が内務省より分かれて新設された。これによって、保健所も各種相談所などを統合して行政機関としての全国的態勢をとるに至ったが、実際の機能は相談所の域を超えず、戦時下の末端衛生行政そのものは、依然として警察によって掌握されていたのが現実であった。
これが改められたのは、第二次世界大戦の終息によって、新憲法第25条の基本理念(国民の生存権、国民の社会保障的義務)に基づく行政機構の再編成が行われ、1947年(昭和22)に新たな「保健所法(94年の改正により現行の地域保健法となる)」が成立してからである。同法は、保健所を衛生行政の第一線機関として位置づけ、1874年(明治7)以来続いてきた警察の取締り行政を科学的指導行政へと大きく転換させた。そして、人口10万人に1か所を目標とした、保健所網の整備から、より高いレベルの公衆衛生行政が必要となっており、急激な社会経済の変動、疾病構造や人口構造の変化、医療および福祉の近代化に伴って、保健所にも大きな転換期が訪れている。
[春日 齊]
『『保健所五十年史』(1988・日本公衆衛生協会)』▽『朝倉新太郎・野村拓・儀我壮一郎・西岡幸泰・日野秀逸編『講座 日本の保健・医療3 地域と医療』(1990・労働旬報社)』▽『北川定謙著『地域保健法による新しい地域保健事業の進め方――保健所と市町村の役割』(1997・日本公衆衛生協会)』▽『保健衛生施設研究会編『保健衛生施設関係ハンドブック』(2001・中央法規出版)』
疾病の予防,健康増進など地域住民の保健指導を行う公的機関をいう。経営主体や事業内容には差があるが,先進諸国をはじめ,多くの国々で設けられている。ただし,発展途上国には類似の機関のない国もある。日本では保健指導のほか,人口動態,環境衛生など衛生関係の行政事務・検査も処理している。1937年に制定された〈保健所法〉にもとづき全国39ヵ所に設置されたのに始まり,44年には古くからあった種々の官公立健康相談所が保健所に加えられて全国770ヵ所となった。しかし,第2次大戦後の47年に保健所法が全面的に改正され,現在の体系の根幹が作られた。1994年保健所法が地域保健法に発展的に包括されるまでの保健所法では,〈保健所は地方における公衆衛生の向上及び増進を図るため,都道府県または政令(保健所施行令)で定める市(全国31市および東京23特別区)がこれを設置する〉(1条)とされ,全国に845ヵ所(1995年3月末現在)設置されている。また,保健所の業務は同法2条で,次のように規定されている。
(1)衛生思想の普及及び向上に関する事項,(2)人口動態統計に関する事項,(3)栄養の改善及び飲食物の衛生に関する事項,(4)住宅,水道,下水道,廃棄物の処理,清掃その他の環境の衛生に関する事項,(5)保健婦に関する事項,(6)公共医療事業の向上及び増進に関する事項,(7)母性及び乳幼児並びに老人の衛生に関する事項,(8)歯科衛生に関する事項,(9)衛生上の試験及び検査に関する事項,(10)精神衛生に関する事項,(11)結核,性病,伝染病その他の疾病の予防に関する事項,(12)その他地方における公衆衛生の向上及び増進に関する事項。
これを大別すると,人を対象としての健康相談,健康診断,予防接種,医療費相談,衛生教育などの保健業務,環境衛生監視,食品衛生監視などの監視業務,伝染病,出生,死亡など衛生統計および衛生関係の営業に関する許認可,医療関係者や医療機関に関する行政業務,などとなっている。さらに全般的な業務として,管内自治体,医師会など関係諸組織との協力のもとに,管内公衆衛生に関する総合計画樹立とその遂行の要となる任務が課せられている。職員は医師,歯科医師,薬剤師,獣医師,保健婦,栄養士,歯科衛生士,診療放射線技師,臨床検査技師,医療社会事業担当者,環境衛生監視員,食品衛生監視員,事務吏員などが配置され,所長は医師が当たることとされている。また保健所には,運営の審議機関として管内各界からの参加で保健所運営協議会が設けられている。戦後から現在に至る過程で,0歳平均余命が男で50.06歳(1947)から76.36歳(1995)へ,女で53.96歳(1947)から82.84歳(1995)へと延びたことに代表されるように,日本の公衆衛生の向上に保健所が一翼を担ったことは疑いのない事実である。しかしとくにここ十数年,医師・歯科医師の人員不足,疾病構造の変化に応じた衛生需要の変化への対応の不十分,お役所特有の縦割りシステムと画一性,法律や規則に取り組む意識面や人員・スタッフの不十分などが相まって,保健所の活動には深刻な問題が生じている。地域保健法では保健所を地域保健の広域的・専門的・技術的拠点として機能を強化することが強調され,保健センター,精神衛生センターなどの連携,市町村との連絡調整なども事業の中に加えられている。また地域保健に関する調査・研究および情報の収集・活用にも事業が拡大していく方向が示されている。
執筆者:溝口 勲
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… 法律で定める児童福祉の業務の遂行をする専門職者は児童福祉司であり,児童福祉司や社会福祉主事に協力する民間人が都道府県知事の任命による児童委員(民生委員)である。 専門機関としては,児童福祉処遇の基盤となる判定,相談,指導,一時保護を業務とする児童相談所と,施設機関への措置権をもち,調査や送致を実施する福祉事務所,ならびに児童にかかわる諸般の保健援助を実施する保健所がある。また,児童福祉法は以下の施設を児童福祉施設としている。…
…対人保健サービスを総合的に行うことを目的として,市町村ごとに設置される施設。従来,保健所が公衆衛生活動を担う地域の機関として重要な役割を果たしてきたが,対人保健サービス分野での保健需要が多様化,高度化してきたことから,これに弾力的に対応するためとして,厚生省は1978年度から10ヵ年計画で全国の市町村に保健センターを設置することとした。94年に保健所法が地域保健法に発展させられてからは,保険センターは法定化された。…
※「保健所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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