現行母体保護法の改正前の法律。優生学上不良な遺伝のある者の出生を防止し、また妊娠・出産による母体の健康を保持することを目的として、優生手術、人工妊娠中絶、受胎調節および優生結婚相談などについて規定した法律をいう(昭和23年法律156号)。優生保護法以前には、国民の資質向上を目的とした「国民優生法」が成立(1940=昭和15)していたが、これは主として優生手術と健康者の産児制限の防止を規定したものであった。優生保護法は、戦後の混乱期における人口急増対策と危険な闇(やみ)堕胎の防止のため人工妊娠中絶の一部を合法化したもので、その内容の是非をめぐってはつねに議論があった。さらに優生思想に基づく部分は障害者差別となっており、改正を求める声が多かった。このため、優生保護法のうち、優生思想に基づく部分を削除する改正が行われ、法律名も母体保護法(1996年9月施行)に改められた。
[春日 齊]
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…母性の生命健康を保護することを目的とし,不妊手術,人工妊娠中絶および受胎調節の実地指導について定める法律。1996年の改正で優生保護法から母体保護法へと改称された。 不妊手術とは,生殖腺を除去することなしに生殖を不能にする手術のうち命令をもって定められたものをいう(2条2項)。…
…53年には諸団体の統合機関として日本家族計画連盟が結成され国際家族計画連盟に加盟した。それよりさき優生保護法(1948制定,1997年改正で母体保護法と改称)に49年の改正で受胎調節の実施指導に関する規定が加えられたが,51年には受胎調節普及対策を実施することが閣議で決定された。世界で政府みずから産児制限を取り上げたのは日本がはじめである。…
… 日本の刑法で堕胎罪を規定したのは,1880年公布の旧刑法330条以下以来であるが,現行刑法(1907公布)がこれを継承した背後には,富国強兵という国家目的の基礎として人的資源を確保するという政策的配慮があったものと思われる。しかし,第2次大戦に敗北した後には,反対に,食糧不足と人口過剰のなかで,1948年に優生保護法(1996年に〈母体保護法〉と改称)が制定され,一定の場合に人工妊娠中絶が合法化されることとなった。同法によれば,医学的,社会経済的,倫理的適応がある場合には,胎児が母体外において生命を保続することのできない時期に限り,妊婦および配偶者の同意のもとで指定医によって行われる人工妊娠中絶を合法としている。…
…ふつうナチス優生学というときは,表向きの断種政策と,秘密政策としてのユダヤ人の系統的殺害の双方を含めることが多い。 日本も太平洋戦争中に,ナチス断種法にならった国民優生法を成立させたが,ほとんど機能しないまま敗戦を迎え,1948年の優生保護法として再生することになった。ただしこの法律も条文上は戦前の強制的優生断種の性格を残しており,母体保護の名による中絶の条項以外はほとんど空文化しているとはいえ,もし条文どおりに運用されれば著しい人権侵害を招くおそれがあった。…
※「優生保護法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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