鎌倉時代末の日本仏教史の書。30巻。虎関師錬著。師錬は初期の五山文学を代表する詩僧で,東福寺,南禅寺などの住持をつとめた。1307年(徳治2),29歳の年に,来日した一山一寧に参禅した際,中国の事のみくわしく,自国の事に無知であることをとがめられた。発憤した師錬は以後刻苦勉励すること15年,1322年(元亨2)に,《元亨釈書》と題する日本仏教史を完成させて後醍醐天皇に上呈した。中国の高僧伝と同じく30巻から成るが,単なる僧伝集にとどまらず,《史記》以来の正史にならって,全体を伝(巻一~十九),資治表(巻二十~二十六),志(巻二十七~三十)の三部編成としている。伝は,伝智・慧解・浄禅・感進・忍行・明戒・檀興・方応・力遊・願雑の10項に分けて416の伝を記し,賛・論を付している。ついで仏教史の大綱を記した資治表を置き,志は,学修・度受・諸宗・会儀・封職・寺像・音芸・拾異・黜争・序説の10項に分けて,日本仏教史を部門別に述べている。日本の仏教は早くから宗派に分かれる傾向が強く,仏教史も宗派史としてしか考えられなかったが,師錬は蒙古襲来後の民族意識の高揚を背景に,日本仏教を総合的にとらえようとし,その叙述を完成させた。中国の仏教に対して,日本仏教の特色を明らかにし,そのすぐれている点を主張しようとするなど,鎌倉時代末の思想の動向を反映しており,最初の整った日本仏教史として後世に与えた影響も大きい。
執筆者:大隅 和雄
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鎌倉末期に成立した日本仏教史書。虎関師錬(こかんしれん)著。30巻。総合的僧伝としては日本最初のもので、紀伝体の歴史書としても最初のものである。内容は、伝(僧伝)、表(資治表=年表)、志(仏教文化誌)の3部分からなり、巻19までの僧伝は、中国の高僧伝に倣って10科に分類する。1307年(徳治2)一山一寧(いっさんいちねい)に日本仏教についての無知を指摘されて発憤し、22年(元亨2)に完成した。虎関の寂後、入蔵(にゅうぞう)(大蔵経編入)が勅許され、64年(正平19・貞治3)より14年を費やし刊行された。注釈書に『和解(わげ)』『便蒙(べんもう)』『微考』などがある。
[石川力山]
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虎関師錬(こかんしれん)が1322年(元亨2)に編纂した日本仏教史。30巻。仏教伝来から同年までを,高僧の伝記をまとめた伝,欽明天皇から仲恭天皇までの仏教年代記をまとめた資治表,仏教の制度や寺院の歴史など部門史をまとめた志の3部からなる。同年8月16日の上表文から,多くの高僧を輩出しながら,日本には彼らの通伝がないことを嘆いて著されたことがわかる。巻2・3・10・22の自筆浄書本が東福寺に現存。1360年(延文5・正平15)大蔵経に加えられ,東福寺海蔵院の無比単況(たんきょう)が64年(貞治3・正平19)から版をおこし,77年(永和3・天授3)に完成した大蔵経が最古の版本。「新訂増補国史大系」所収。
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