全損分損(読み)ぜんそんぶんそん

改訂新版 世界大百科事典 「全損分損」の意味・わかりやすい解説

全損・分損 (ぜんそんぶんそん)

損害保険は偶然な一定の事故により生ずる損害を塡補(てんぽ)する仕組みであるが,その損害は,それが保険の対象となるもの(保険の目的という)の全部について生じたかまたはその一部について生じたかによって,全損と分損に分けられる。

 全損は保険の目的が壊滅的な損傷を受け形状をとどめなくなった場合,たとえば火災による建物の全焼などが典型的であるが,本来の用途に供せられない程度に変質してしまった場合(海難事故で浸水のため穀物が腐敗したような例)や所有主の占有を離れ回収見込みが立たない場合(船舶深海への沈没)も全損に当たる。これらは狭義の全損で一般的に絶対全損または現実全損とよばれるが,このほかにまだ現実に滅失してはいないがその発生が避けがたい場合や修繕費がかさんで経済的に全損とみなされる場合があり,これらは推定全損または解釈全損とよばれ広義の全損に含まれる。絶対全損・推定全損の区分は本来イギリスの海上保険の制度であるが,日本でも商法833条で海上保険における船舶の行方不明や修繕不能などの場合に保険委付という制度(委付)を設け,保険の目的について有するいっさいの権利を保険会社にゆだねて全損処理を請求することができる,としている。

 絶対全損と推定全損のいずれの場合であっても,保険会社は被保険者(保険金を受け取る権利をもつ人)に保険金額の全額を支払うこととなり,その結果として保険の目的の残存物があれば保険会社はその残存物について被保険者が有している権利を取得する(商法661条)。これを保険代位という。

 分損は全損以外のすべての損害をいう。海上保険では分損の場合に単独海損と共同海損が区別される。共同海損は船長が船舶および積荷の共同の危険を免れるため船舶または積荷についてなした処分(たとえば投荷)によって生じた損害と費用をいい,それ以外を単独海損という。全損についてはこのような区別をしないが,分損の場合には保険会社の責任が共同海損と単独海損で異なるという実務上の理由による。
海損
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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