八溝山(読み)ヤミゾサン

デジタル大辞泉 「八溝山」の意味・読み・例文・類語

やみぞ‐さん【八溝山】

福島・茨城・栃木3県の県境にある山。八溝山地の主峰。標高1022メートル。高原状の山頂に八溝嶺神社がある。周辺で採れる八溝石が庭石として珍重されるほか、南麓の八溝川湧水群も有名。

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日本歴史地名大系 「八溝山」の解説

八溝山
やみぞさん

福島県(おもに塙町)・栃木県(おもに黒羽町)・茨城県(おもに大子町)にまたがる標高一〇二二メートルの山。金神信仰・農神信仰・観音信仰と三様の信仰をもつ。山頂には八溝神社が祀られているが、「延喜式」神名帳所載の白河郡七座中の一社である八溝嶺やみぞみね神社につながる神社であろう。八溝神社は平安時代に白河郡を代表する七つの神社の一社に数えられていたことになる。八溝神社が白河郡を代表する神社とされた理由の一つは、「続日本後紀」承和三年(八三六)一月二五日条に「詔、奉充陸奥国白河郡従五位下勲十等八溝黄金神封戸二烟、以応国司之祷、令採得砂金、其数倍常、能助遣唐之資也」とみえる。この「八溝黄金神」は八溝神社とその神にあたるものと思われる。当時、八溝神社の神は黄金神と認識されていたらしい。国司が八溝の神に祈ったところ砂金が常の倍採れたとあることからも明らかなように、金の産出に効力を発揮する神であったことによる。八溝山は「加藤寛斎随筆」に「山中多金穴」とあることや、八溝山系に連なる地点金山かねやま(現表郷村)いり山の奥に「黄金取たる跡幾許と云数を不知」と記す「白河古事考」の記事などでわかるように産金の山であった。また「続日本後紀」承和二年二月二三日条に「下野国武茂神奉授従五位下、此神坐採沙金之山」とあるが、これも八溝山かその近くでの産金による叙位であろう。

八溝の神・八溝神社には右のごとく鉱山神としての性格が古くからあったが、もう一つ農耕神としての性格がある。

八溝山
やみぞさん

大子だいご町最北端の茨城・栃木・福島三県境にまたがる標高一〇二二・二メートルの山。八溝山塊に属する茨城県の最高峰で、山頂からは遥かに太平洋・関東平野一帯・中部方面に及ぶ雄大な眺望が開け、久慈川水源でもある。「新編常陸国誌」に「水戸領地理志云、今久慈郡上野宮ニアリ、山中至テ深陰、殊ニ連ル峯々多ク、又八嶽八水ト云フアリ」とみえ、徳川光圀が全山を探勝したという。

山頂には八溝嶺やみぞみね神社が鎮座し、南斜面には坂東三十三観音霊場二一番札所の日輪にちりん寺がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「八溝山」の意味・わかりやすい解説

八溝山
やみぞさん

茨城県北西部、久慈(くじ)郡大子町(だいごまち)にあり、福島、栃木と3県にまたがる。久慈川と那珂(なか)川支流の源流地である。八溝山地の主峰で、標高1022メートルの山頂は高原状で、茨城・福島両県境をなし、茨城県の最高峰。八方に谷を刻む地形により名づけられた。地質は砂岩、頁岩(けつがん)を主とする中生層。ブナ、ダケカンバの温帯落葉広葉樹の自然林が残り、北限(ツガ)、南限(オヤリハグマ)とする植生もある。ヤマネムササビが生息し、ムカシトンボも多い。スギ、ヒノキの植林が進み、林業が主で、渓谷ではワサビ栽培もある。頂上に八溝嶺(やみぞみね)神社と展望台、中腹に日輪(にちりん)寺があり、茨城、福島両県の奥久慈県立自然公園をなす。

[櫻井明俊]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八溝山」の意味・わかりやすい解説

八溝山
やみぞさん

茨城県北西端,福島県との県境にある山。標高 1022m。八溝山地の主峰。壮年期の山地で開析された深い谷がある。那珂川,久慈川の水源。山頂部まで自動車道路が通じ,奥久慈県立自然公園に属する。

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世界大百科事典(旧版)内の八溝山の言及

【八溝山地】より

…福島県南部から茨城・栃木県境にかけて連なる山地。最高峰で3県にまたがる八溝山(1022m)から南へ,鷲子(とりのこ)山(445m),鶏足(けいそく)山(431m)などを経て筑波山(876m)に至る。古生代の砂岩やケツ岩,石灰岩などからなり,ところどころに花コウ岩が貫入している。…

※「八溝山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」