改訂新版 世界大百科事典 「公平な裁判」の意味・わかりやすい解説
公平な裁判 (こうへいなさいばん)
法治国家においては,国民の権利保障を確かなものとするために,すべての法律上の争訟において公平な裁判の実現を図らなくてはならない。そのことは,刑罰という重大な問題にかかわる刑事事件でとくに強調され,日本国憲法も刑事被告人についての保障規定をとくに設けている(37条1項)。公平な裁判を担保するには,〈司法権の独立〉がまず保障されなくてはならない。そのうえで,第1に裁判所の組織・構成が公平であること,第2に手続の遂行が適正であることが必要である。そのための制度を現行の刑事手続を中心にみると,第1点については,裁判所と検察庁の機構的分離(戦前も両者は一応分離してはいたが,ともに司法大臣の管轄下にあり,その分立は不十分だった)や,裁判官等の除斥・忌避・回避の制度があげられる。第2点については,まず起訴状一本主義(起訴)がある。すなわち,裁判官に予断を生じさせるおそれのある書類等を起訴状に添付したり内容を引用してはならないという要請である。なお,予断排除に関連して,日本で有罪率がきわめて高い(9割をはるかに超える)という現状で,そのことが裁判官の意識に少なからず影響を及ぼしてはいないか,との指摘がある。また,当事者主義,口頭主義,弁論主義,直接主義等の訴訟上の諸原理も公平な裁判の実現に重要な役割を果たすことを期待されている。とくに刑事事件では,戦前のような職権主義的手続の限界に対する反省から,強大な組織と権限をもつ検察官に対して被告人の法的な地位を高めることが重視され,弁護人依頼権も保障されている(憲法37条3項)。さらには,〈迅速な裁判〉や公開裁判の保障も公平な裁判の一内容をなすといえよう。
執筆者:米山 耕二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報