船長が、船舶および積み荷に対する共同の危険を免れるために、船舶または積み荷についてなした処分によって生じた損害および費用。単独海損に対する概念。この制度は、海上交通の安全を期するために、海難に対する積極的な対応策として法が認めたもので、その損害や費用を利害関係人に公平に分担させるのは、衡平の観念に基づいている。他方、海上危険の切迫した緊急状態において、船舶・積み荷の利害関係人によって構成された共同危険団体の共同利益を管理するために、船長がなした処分(投げ荷、船舶の乗り上げ等)によって生じた損害や費用を、共同危険団体において分担せしめ、あたかも相互保険のような危険の公平な分配を認めたものが共同海損の制度であるとする有力説もある。
共同海損の分担義務が発生するためには、(1)船舶・積み荷に共同の切迫した危険が存在し、船長の故意の処分により損害(犠牲海損と費用海損)が生じたという共同海損が成立したこと、(2)船舶・積み荷・運送賃の保存、(3)保存と処分との間の因果関係、が必要である。分担額の算定につき、原則として、共同海損によって保存することをえた船舶または積み荷の価額と運送賃の半額と共同海損たる損害の額との割合に応じて、各利害関係人が分担することになっている。共同海損の分担に関する計算は船長の職務に属するが、実際上は専門の精算人が行う。共同海損となるべき損害の種類や算定方法につき国際的に統一する必要があるので、現在、1974年に制定され、2004年に改訂されたヨーク・アントワープ規則が実際界で広く利用されている。
[戸田修三]
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… このように海上保険はいっさいの海上危険を負担するが,海上危険によって生じたいっさいの損害を塡補するのではなく,あらかじめ取り決められた塡補範囲内の損害のみを塡補する。損害は,船舶・積荷に生ずる物的損害と,事故の結果被保険者が支出した費用(たとえば救助費)に分類することができ,また被保険者が単独で負担すべき単独海損と,共同海損の関係者が分担すべき共同海損に,また被保険利益の全部が滅失したか一部が滅失したかによって全損と分損とに分けられる(海損)。これらの損害のいずれを塡補しいずれを塡補しないかは,被保険利益の種類,保険の目的が被害をうける程度,保険料の高低などに従って,契約のつど保険者と保険契約者の間で取り決められる。…
…小海損は,運送賃や積荷の価格のなかに加算される性質のものであるから,とくに海損として法律上の問題を生じない。非常海損(狭義の海損)のうち,船舶または積荷に対する格別の事故によって生ずる損害を,単独海損particular averageといい,船舶および積荷に共通の事由により生ずる損害を共同海損general averageという。単独海損は,その物の所有者が単独でこれを負担するが,共同海損は,各利害関係人の間で損害を分担しあうという問題が生ずる。…
…船舶衝突のような不法行為については,関係船舶が同一国籍のときはその国籍により,異国籍のときは両旗国法累積説が有力説である。公海上の共同海損については,特約のあるときは法例7条によるが,特約のない場合は不当利得に準ずるものとして旗国法による。海難救助については,救助契約のある場合は法例7条によるが,救助契約がない場合は事務管理の一種とみて共通旗国法,それが存在しない場合は両旗国法を累積する説が従来の有力説である。…
… 分損は全損以外のすべての損害をいう。海上保険では分損の場合に単独海損と共同海損が区別される。共同海損は船長が船舶および積荷の共同の危険を免れるため船舶または積荷についてなした処分(たとえば投荷)によって生じた損害と費用をいい,それ以外を単独海損という。…
※「共同海損」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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