北村透谷(とうこく)の文芸評論。1893年(明治26)5月に、彼を中心とする同人誌『文学界』に発表したものだが、そのすこし前の論文『人生に相渉(あいわた)るとは何の謂(いい)ぞ』(1893.2)以来の、民友社的功利主義の文学観に対する一連の根本的批判の文章のうちのまさにピークをなす論文で、同時に透谷の文芸評論全体を代表する。『人生に相渉るとは何の謂ぞ』ではまず山路愛山(やまじあいざん)を批判したが、ここでは、透谷が青年時代以来種々の示唆を与えられてきた民友社の総帥徳富蘇峰(そほう)の啓蒙(けいもう)主義文学論に対する根本的な批判を始めている。もはや啓蒙の段階は終わったのだ、創造の現場で人間の「内部生命」を引き出してこれを「ソルブ(解釈)」することと結び付いての批評でなければならぬ、というのが透谷の主張で、それは日本近代文学の目的を初めて理論的に明らかにしたものでもあった。
[小田切秀雄]
『『北村透谷選集』(岩波文庫)』▽『『人生に相渉るとは何の謂ぞ』(旺文社文庫)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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