分子場(読み)ぶんしば(英語表記)molecular field

改訂新版 世界大百科事典 「分子場」の意味・わかりやすい解説

分子場 (ぶんしば)
molecular field

強磁性理論の初期において,なぜ磁区が作られるのかを説明するためにP.ワイスが導入した分子磁場なるものが,今日分子場と呼ばれているものである。この概念はしだいに拡張され,ときに平均場平均場近似)を分子場ということもある。

 孤立した原子は外部磁場によって磁気モーメントを帯びるが,ワイスによれば磁性体の中では原子が磁気モーメントを帯びると,これに比例する分子磁場を周囲の原子に及ぼす。一つの原子に着目すると,その周囲の原子から受ける分子磁場を外部磁場に加えた有効磁場が,着目している原子の磁気モーメントを引き出すのであると考える。そしてまた例えば鉄の場合,どの鉄原子も同一磁区内では同じ磁気モーメントを帯びると考えられた。この分子磁場の正体が何であるかは,量子力学の誕生をまってW.K.ハイゼンベルクにより与えられた。

 分子場にはゆらぎがないとされる。しかし,原子の磁気モーメントは,平均としては同一磁区内で0でない値をもつが,個々に見れば熱的ゆらぎのためいろいろな方向を向いている。このゆらぎ効果はワイスの分子磁場理論では無視されている。このように,分子場理論は近似理論であり,これを一つの近似法と見るとき,分子場近似といい,現在では平均場近似と同義語に用いられることがある。なお,ワイスの分子磁場はスピンにだけ作用し,電子軌道運動反磁性電流をひき起こすことがない。この意味本物の磁場とは異なる。
磁性
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「分子場」の意味・わかりやすい解説

分子場
ぶんしば
molecular field

平均場または有効場ともいう。1つの要素と他の要素との相互作用をこの要素に働く有効な外場と考えて,多体問題を一体問題で近似する。この外場を分子場という。統計力学協力現象を扱うときに用いられる最も簡単な近似法である。強磁性体の場合には1つのスピンに働く平均的な磁場,強誘電体の場合には1つの双極子に働く平均的な電場などの形で用いられる。統計力学の分野ではブラック=ウィリアムズ近似と呼ばれている。

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世界大百科事典(旧版)内の分子場の言及

【磁性】より

…磁性の起源は電子の運動に基づく磁気モーメントであるから,磁性の理解も量子力学の展開を待たねばならなかった。それ以前の古典的な磁性研究としては,常磁性磁化率が絶対温度に反比例するというキュリーの法則,1907年のワイスPierre Weiss(1865‐1940)による強磁性を説明するための分子磁場(分子場,平均場ともいう)の概念の導入が挙げられる。この分子場というのは,個々の電子の磁気モーメントに働く,その物質の磁化に比例した磁場であり,この考え方は強磁性を含めて協同現象と呼ばれる物性物理学における典型的な現象を理解する鍵となるものであった。…

※「分子場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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