精選版 日本国語大辞典 「匂」の意味・読み・例文・類語
においにほひ【匂】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「におう(匂)」の連用形の名詞化 )
- ① あざやかに映えて見える色あい。色つや。古くは、もみじや花など、赤を基調とする色あいについていった。そのものから発する色あい、光をうけてはえる色、また染色の色あいなどさまざまな場合にもいい、中世にはあざやかな色あいよりもほのぼのとした明るさを表わすようになった。→「におう(匂)」の語誌。
- ② 人の内部から発散してくる生き生きとした美しさ。あふれるような美しさ。優しさ、美的なセンスなど、内面的なもののあらわれにもいう。
- [初出の実例]「なでしこが花見るごとにをとめらが笑まひの爾保比(ニホヒ)思ほゆるかも」(出典:万葉集(8C後)一八・四一一四)
- 「けたかくおはするものから、なつかしくにほひある心ざまぞ劣り給へりける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)総角)
- ③ 花やかに人目をひくありさま。見栄えのするさま。栄華のさま。威光。光彩。
- [初出の実例]「故権大納言、なにの折々にも、なきにつけて、いとどしのばるること多く、おほやけわたくし、物の折ふしのにほひうせたる心ちこそすれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)鈴虫)
- ④ ( 「臭」とも ) ただよい出て嗅覚を刺激する気。かおり、くさみなど。悪いにおいについて「臭」とも書く。
- [初出の実例]「散ると見てあるべきものを梅の花うたてにほひの袖にとまれる〈素性〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・四七)
- 「悪臭(ニホヒ)に寄る青蠅の様に」(出典:花ごもり(1894)〈樋口一葉〉二)
- ⑤ 声が、張りがあって豊かで美しいさま。声のつやっぽさ。声のなまめかしさ。中世になると、心にしみるような感じをもいう。
- [初出の実例]「こたへたるこゑも、いみじうにほひあり」(出典:とりかへばや物語(12C後)上)
- ⑥ そのもののうちにどことなくただよう、気配、気分、情趣。ただよい流れる雰囲気。
- (イ) 文芸・美術などでそのものにあらわれている魅力、美しさ、妙趣など。
- [初出の実例]「故入道の宮の御手は、いと気色ふかうなまめきたる筋はありしかど〈略〉にほひぞすくなかりし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)梅枝)
- (ロ) 能で、余韻、情趣。特に、謡から舞へ、あるいは次の謡へ移るとき、その間あいにかもし出される余韻。
- [初出の実例]「舞は音声より出でずば、感あるべからず。一声のにほひより、舞へ移るさかひにて、妙力あるべし」(出典:花鏡(1424)無声為根)
- (ハ) 和歌・俳諧で、余韻、余情。特に、蕉風俳諧で、前句にただよっている余情と、それを感じとって付けた付け句の間にかもし出される情趣。→匂付け。
- [初出の実例]「一には、させる事なけれど、ただ詞続きにほひ深くいひなかしつれば、よろしく聞こゆ」(出典:無名抄(1211頃))
- (ニ) あるものごとの存在や印象を示しながら漂っている気配、雰囲気、気分など。
- [初出の実例]「春の草花彫刻の 鑿(のみ)の韻(ニホヒ)もとどめじな」(出典:若菜集(1897)〈島崎藤村〉深林の逍遙)
- 「その一時代前の臭ひを脱することが出来ない」(出典:東京の三十年(1917)〈田山花袋〉白鳥氏と秋江氏)
- (ホ) 事件の、それらしい徴候。「犯罪のにおいがする」
- (イ) 文芸・美術などでそのものにあらわれている魅力、美しさ、妙趣など。
- ⑦ 濃い色からだんだん薄くなっていくこと。ぼかし。
- (イ) 染色または襲(かさね)の色目にいう。
- [初出の実例]「かかるすぢはたいとすぐれて、世になき色あひ、にほひを染めつけ給へば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
- 「女房の車いろいろにもみぢのにほひいだしなどして」(出典:今鏡(1170)四)
- (ロ) =においおどし(匂威)
- [初出の実例]「経正其の日は紫地の錦の直垂に、萌黄の匂の鎧きて」(出典:平家物語(13C前)七)
- (ハ) 黛(まゆずみ)で眉を描いてぼかした部分。
- (ニ) 日本刀の刃と地膚の境に煙のように見える文様。〔鎧色談(1771)〕
- (イ) 染色または襲(かさね)の色目にいう。
におわしいにほはしい【匂】
- 〘 形容詞シク活用 〙 においやかである。つややかに美しい。
- [初出の実例]「あざやかににほはしき所は、添ひてさへ見ゆ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)藤裏葉)
匂の派生語
におわし‐げ- 〘 形容動詞ナリ活用 〙
匂の派生語
におわし‐さ- 〘 名詞 〙