匂う(読み)ニオウ

デジタル大辞泉 「匂う」の意味・読み・例文・類語

にお・う〔にほふ〕【匂う】

[動ワ五(ハ四)]《「」を活用した語で、赤色が際立つ意》
よいにおいを鼻に感じる。かおりがただよう。「百合の花が―・う」「石鹸がほのかに―・う」→臭う1
鮮やかに色づく。特に、赤く色づく。また、色が美しく輝く。照り映える。「紅に―・う梅の花」「朝日に―・う山桜
内面の美しさなどがあふれ出て、生き生きと輝く。
「純な、朗らかな、恵みに―・うた相が」〈倉田愛と認識との出発
おかげをこうむって、栄える。引き立てられる。
「思ひかしづかれ給へる御宿世をぞ、わが家までは―・ひ来ねど」〈・少女〉
染め色またはかさねの色目などで、濃い色合いからしだいに薄くぼかしてある。
「五節の折着たりし黄なるより紅まで―・ひたりし紅葉どもに」〈讃岐典侍日記・下〉
[動ハ下二]美しく色を染める。
住吉すみのえ岸野はりに―・ふれどにほはぬ我やにほひて居らむ」〈・三八〇一〉
[類語](1薫る香る匂やか匂いやかくんずる匂わす鼻につくかぐわしい香ばしいかんばしい馥郁ふくいく芬芬ふんぷん

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「匂う」の意味・読み・例文・類語

にお・うにほふ【匂】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ワ行五(ハ四) 〙
    [ 文語形 ]にほ・ふ 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙 色がきわだつ、または美しく映える。また、何やら発散するもの、ただよい出るものが感じ取られる。
    1. 赤などのあざやかな色が、光を放つように花やかに印象づけられることをいう。色が明るく映える。あざやかに色づく。古代では、特に赤く色づく意で用いられたが、次第に他の色にもいうようになった。
      1. [初出の実例]「春の苑(その)(くれなゐ)爾保布(ニホフ)桃の花下照る道に出で立つ(をとめ)」(出典万葉集(8C後)一九・四一三九)
      2. 「后十五重なりたる白き御衣奉りたる御袖口の、白浪立ちたるやうににほひたりけるを」(出典:今鏡(1170)五)
    2. 他のものの色がうつる。染まる。
      1. [初出の実例]「草枕旅行く人も往き触れば爾保比(ニホヒ)ぬべくも咲ける萩かも」(出典:万葉集(8C後)八・一五三二)
    3. 明るく照り映える。つやつやとした光沢をもつ。美しく、つややかである。中世になると、ほのぼのと美しい明るさにもいうようになった。
      1. [初出の実例]「朝日影爾保敝(ニホヘ)る山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて」(出典:万葉集(8C後)四・四九五)
      2. 「女君かほはいとあかくにほひて、こぼるばかりの御あいぎゃうにて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)澪標)
    4. ( 「臭」とも書く ) 嗅覚を刺激する気がただよい出る。香り、臭(くさ)みなどが感じられる。
      1. [初出の実例]「橘(たちばな)の爾保敝(ニホヘ)る香かもほととぎす鳴く夜の雨にうつろひぬらむ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九一六)
      2. 「万に物の香くさくにほひたるがわびしければ」(出典:落窪物語(10C後)一)
    5. 花がつややかに美しく咲く。咲きほこる。
      1. [初出の実例]「さくら花けふこそかくもにほふともあなたのみがたあすのよのこと」(出典:伊勢物語(10C前)九〇)
    6. 生き生きとした美しさや魅力が、内部からあふれ出るように、その人のまわりにただよって感じられる。うるわしくある。
      1. [初出の実例]「紫の爾保敝(ニホヘ)る妹を憎くあらば人妻故に吾恋ひめやも」(出典:万葉集(8C後)一・二一)
      2. 「愛敬のこぼるばかりににほへるかたは」(出典:浜松中納言物語(11C中)一)
    7. 世に栄える。また、影響を受けて周囲のものまで花やかに栄える。引き立てられる。
      1. [初出の実例]「人ひとりを思ひかしづき給はんゆゑは、ほとりまでもにほふためしこそあれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)真木柱)
    8. 染色もしくは襲(かさね)の色目を、濃い色からしだいに薄くぼかしてある。また、ある色からある色へしだいに変化するように配色してある。
      1. [初出の実例]「五節のをり著たりし黄なるより紅までにほひたりし紅葉どもに、えびぞめのからぎぬとかや著たりし」(出典:讚岐典侍(1108頃)下)
    9. 何となくそれらしい気配が感じられる。あまりよくないことについていう。「どうやらにおってきた」
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ハ行四段活用 〙
    1. 香りを発散させる。
      1. [初出の実例]「花の色は雪にまじりて見えずともかをだににほへ人のしるべく〈小野篁〉」(出典:古今和歌集(905‐914)冬・三三五)
    2. 匂いをかぐ。かぎわける。
      1. [初出の実例]「暖ふなりてもあけぬ北の窓〈野坡〉 徳利匂ふて酢を買にゆく〈芭蕉〉」(出典:俳諧・続寒菊(1780))
  3. [ 3 ] 〘 他動詞 ハ行下二段活用 〙 美しく染める。におわせる。
    1. [初出の実例]「住吉の岸野の榛(はり)に丹穂所経(ニホフれ)ど匂はぬ我や匂ひて居らむ」(出典:万葉集(8C後)一六・三八〇一)

匂うの語誌

( 1 )「万葉集」では、一首のうちに表意表記(正訓)を用いながら「にほふ」については「爾保布」「爾保敝」等仮名書きにした例が五〇首ほどあり、そのうち嗅覚に関すると認められるものは数例にとどまる。また、「にほふ」と読まれるべき漢字としては、「香」「薫」「艷」「艷色」「染」の五種が七首に見える。そのうち、「香」「薫」は漢字としてはもともと嗅覚に関するが、視覚的な情況に用いられている。
( 2 )「万葉集」では、赤系統を主体とする明るく華やかな色彩・光沢が発散し、辺りに映えるという、視覚的概念の用例が圧倒的だが、「万葉集」末期には、よい香が辺りに発散することにも用いられ始める。中世には、音・声などの聴覚的概念に用いた例も見え、時代が降るにつれ、「にほふ」の対象及びその属性・意味概念の範囲は広がりを見せる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android