印象管理(読み)いんしょうかんり(その他表記)impression management

最新 心理学事典 「印象管理」の解説

いんしょうかんり
印象管理
impression management

特定他者がなんらかの対象に対して抱いた印象を,コントロールしようとする個人の行動印象操作ともいう。人は怒りを感じていなくても,自己の威厳を示すために攻撃的なふるまいをしてみせることがある。これは,社会的行動は欲求情緒の素直な表出としてではなく,他者への効果を計算したうえで制御された目標志向的行動とみなすこともできる。印象管理とは,こうした観点から社会的行動の心理的プロセスや機能を理解しようとする立場であり,従来,社会心理学が扱ってきた諸問題に関して新たな理論的解釈枠組みを提供している。

 印象管理は,他者の印象である「対象」と,印象を抱く「他者(観客)」と,他者の印象を管理する「主体」の関係性の中で成立する。印象を管理しようとする対象は,商品,人物など多様であるが,対象が自分自身の場合,すなわち,他者に与える自己の印象を望ましい方向に管理しようとする行動は,とくに,自己呈示self-presentationとよばれる。社会学者のゴフマンGoffman,E.(1959)が社会的相互作用を,演劇論的アプローチdramaturgical approachから分析する中で概念化し,主に1980年代ころから,社会心理学の領域で理論的,実証的研究が進められてきた。

 リアリーLeary,M.R.とコワルスキーKowalski,R.M.(1990)は自己呈示の機能(目的)に次の三つを区別している。一つは「報酬の獲得と損失回避」で,適切な印象を与えることで他者との関係を自己にとって有利に導くことである。もう一つは,「自尊心高揚と維持」で,他者からの望ましい評価を得ることで,自尊心self-esteemを保全する機能である。最後は「アイデンティティ確立」で,他者の印象と自己概念が一致することで,自己同一性の感覚を保つ機能である。こうした機能を実現するための自己呈示の方法は多様であるが,いくつかの基本的な方略の存在も指摘されている。セルフ・ハンディキャッピングself-handicappingは,新たな課題場面に臨む際,飲酒などによって,あえて自己を不利な立場におくような行為をいう。失敗しても原因は能力に帰属されず(割引原理discounting principle),成功すれば困難をも乗り越える能力の高さをアピールできる(割増原理augmentation principle)。また,栄光浴basking in reflected gloryは,社会的に評価の高い人物や団体と自己との関係性を強調することで,自らの評価も高めようとする行動を指す。反対に,社会的に評判の悪い対象については,あえて,自己との関係を隠蔽しようとする効果cutting off the reflected failureの存在も知られている。こうした自己呈示方略は,戦術的(短期的)か戦略的(長期的)かの次元と,防衛的か主張的かの次元によって分類される。

 自己呈示にはさまざまな側面に個人差がある。セルフ・モニタリングself-monitoringは,その時々の対人場面の中から適切なふるまい方の手がかりを敏感に察知し,その方針に基づいて自己を管理し調整する傾向をいう。この傾向が高い個人は,状況によって行動パターンを変化させるため,性格特性や態度から行動が予測しにくいことが知られている。そのため,性格や態度と実際の行動との関連性に影響を与える調整変数moderator variableとして位置づけられており,行動の一貫性をめぐる性格心理学の論争においても重要な概念の一つとなっている。 →自尊感情
〔菅原 健介〕

出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報

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