改訂新版 世界大百科事典 「危険有害業務」の意味・わかりやすい解説
危険有害業務 (きけんゆうがいぎょうむ)
危険な業務および有害な業務を併せいう言葉。産業労働のなかには,使用する機械等の種類,製造しまたは取り扱う物質の種類,そのほか作業環境・作業条件により,労働者の安全衛生を脅かし,労働災害や職業病を誘発するおそれのある危険有害業務とされるものがある。それに関係する労働の環境や条件には,プレス等危険な工作機械や施設,著しい高温・寒冷,騒音,振動,異常気圧,酸素欠乏,有害電離放射線,粉塵(ふんじん)その他有害化学物質,さらに重量物取扱い等の作業があげられるが,坑内労働や深夜業も危険または有害とみなされる。
産業と生産技術の発展は,危険有害業務を各種産業分野に拡大し,また新たな危険有害業務を生んでいる。そこで国は,労働基準法,労働安全衛生法および関連諸規則を整備し,労働者を災害や職業病その他著しい健康障害から守るため,事業主に必要な措置を講ずることを義務づけている。これらの影響が女子・年少者にとくに大きいことを考慮し,労働基準法は女子・年少者の深夜業の原則的禁止(62条),危険有害業務の就業制限(63条)と坑内労働禁止(64条)を規定する。成人男子の危険有害業務についても,労働時間延長を1日につき2時間を超えてはならないこと,労働安全衛生法で労働者に安全衛生教育を行うべきこと(59条),特別の項目の健康診断を行うべきこと(66条),さらに関連規則で危険な機械の防護措置,安全装置点検,危険物取扱い時の措置,有害作業環境測定,有害物の換気排気,防毒マスク等保護具などのことについて定めている。それら危険有害業務の範囲は規定する事項で異なるが,女子年少者労働基準規則では,それらの者の就業制限の範囲は女子につき25種,年少者46種とされる。なお危険有害性の著しいものについては,クレーン等安全規則,じん肺法,四アルキル鉛中毒予防,特定化学物質障害予防,高気圧障害防止,電離放射線障害防止,酸素欠乏症障害防止各規則が定められているが,労働災害や職業病防止には労使の一層の協力と努力が要請される。
一方,最近の男女平等に関する国際的動向と日本政府の性差別撤廃条約批准のうえから,上記女子保護規定が性差別につながるという問題視点で,女子の危険有害業務就業制限を含む女子保護規定の見直しが国の立場から進められつつあり,諸外国のなかにはすでにそれらの全部または部分的に制限廃止の法改正がなされた国もある。
執筆者:斉藤 一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報