卵子バンク(読み)ランシバンク

デジタル大辞泉 「卵子バンク」の意味・読み・例文・類語

らんし‐バンク【卵子バンク】

第三者卵子を提供するための仕組みや組織のこと。米国など一部の国では不妊症の人などへの卵子の販売が事業として成立している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「卵子バンク」の意味・わかりやすい解説

卵子バンク
らんしばんく

卵子を収集したのち、適正な方法・管理体制のもとで凍結保存し、依頼に応じて、卵子を出庫する組織。第三者へ卵子を提供する人(ドナー)の卵子を収集・凍結保存するバンクや、健康な女性が将来、子どもをもちたいと思ったときに使えるよう採取された卵子を収集・凍結保存するバンクがある。なお、第三者への卵子提供に関しては、卵子を提供しようとする人(ドナー)を登録し、卵子提供を求める人(レシピエント)や医療機関との仲介マッチング等を業務とするバンクもある。

[神里彩子 2020年9月17日]

沿革(卵子バンクが設立されるようになった背景)

凍結保存卵子を用いた世界で最初の出産例は1986年にオーストラリアから報告されたが、凍結保存卵子の融解後の生存率は低く、技術的課題を抱えていた。しかし、1990年代後半に超急速で冷却・凍結させる「超急速冷却ガラス化保存法」が開発されたことで、融解後の卵子の生存率は高まり、妊娠・出産率も飛躍的に向上した。アメリカを中心にこの技術は普及していったが、アメリカ生殖医学会のガイドラインでは長く「実験的」医療と位置づけられ、2013年になってようやく安全性・有効性が認められるに至った。

 この技術により、(1)がん等の原疾患の治療を受ける前に卵子を採取・凍結保存することで、治療後の妊孕(にんよう)性(生殖可能な状態)を維持すること、および、(2)将来、子どもをもちたいと思ったときに備えて、若いうちに卵子を採取・凍結保存することで、妊孕性を維持することの可能性が高まった。また、非凍結卵子に限定されていたときよりも、(3)両側卵巣摘出や卵巣機能不全、卵巣機能低下により妊娠できない不妊カップルが提供卵子を不妊治療に利用すること、(4)独身男性、同性カップルが提供卵子を用いること、が容易になった。

 そのようななかで、第三者(ドナー)から提供された卵子や本人が将来用いるための卵子を収集し、適正な方法と管理体制のもとで凍結保存を行うバンクが登場したのである。

[神里彩子 2020年9月17日]

現状と課題

日本では、生殖補助医療に関する法律や指針は制定されておらず、卵子の凍結保存については各学会等の方針で規制されている。日本産科婦人科学会では、不妊治療を受ける夫婦の卵子凍結、および、原疾患の治療後の妊孕性を維持することを目的とする卵子凍結のみを一定の条件下で認めている(「ヒト胚(はい)および卵子の凍結保存と移植に関する見解」「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存に関する見解」)。他方で、日本生殖医学会では、これらの目的のほか、本人が将来用いるために凍結保存をすることも一定の条件下で認めている(「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」)。なお、第三者(ドナー)から提供された卵子の凍結については、不妊治療目的で提供卵子の利用を認めている日本生殖補助医療標準化機関Japanese Institution for Standardizing Assisted Reproductive Technology(JISART(ジスアート))ガイドラインにおいても想定されていない。卵子バンクに関する規制は学会の方針を含め整備されておらず、保管されている卵子の品質管理等の検証が求められる。

[神里彩子 2020年9月17日]

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知恵蔵 「卵子バンク」の解説

卵子バンク

病気などで排卵のない女性に対し第三者の卵子を提供することを目的に、卵子を提供する意思のある女性を登録する機関。日本では、親族や友人以外の第三者による提供を支援するサービスが、NPO法人OD-NETによって2013年から始まった。
第三者による卵子提供は、海外では20年以上前から行われ、その多くが有償のサービスとなっているが、OD-NETが行っているのは無償での提供支援。ただしドナー(卵子を提供する人)から採卵する際の医療費はレシピエント(卵子をもらう人)側の負担としている。1983年に日本産科婦人科学会が非配偶者間体外受精を認めないとする見解を出したため、これまで親族や友人からの卵子提供ケースであってもごく一部の医療機関でしか取り扱えない状況が続いていた。
卵子は、精子のように凍結保存することが難しいため、卵子バンクに常に卵子が保管されているわけではなく、レシピエントとドナーのマッチングが成立し、互いに体調を整えた上での採卵となる。採取した卵子とレシピエントの夫の精子で体外受精した卵を、レシピエントの子宮に入れる。
国内で始まったサービスでは、レシピエントは法律婚をしていることや登録時の年齢が40歳未満であること、ドナーは35歳までですでに出産し子どもを持っていることなどが条件とされている。海外で卵子提供を受ける場合の経済的な負担や日本語が通じないことによるコミュニケーションの問題を回避できるというレシピエント側のメリットは大きいが、一方で、ドナー側で採卵時に事故が起きるリスクもあり、その対応にははっきりとしたルールがまだない。また、非配偶者間体外受精で生まれた子の発達過程に応じた心理的なサポートや、民法を始めとする法律もまだ、子どもが出自を知る権利や遺伝上の母と法律上の母の問題などの点が整っていないため、サービスの普及・利用にあたっての課題は多い。

(石川れい子 ライター / 2013年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵mini 「卵子バンク」の解説

卵子バンク

病気などが原因で妊娠できない女性に第三者の卵子を提供するサービス。日本では、2013年にNPO法人のOD-NET(卵子提供登録支援団体)が初めて親族や友人以外の第三者による卵子提供の仲介をスタートした。海外の多くの卵子バンクでは卵子が売買されるのに対し、OD-NETでは無償で提供される。高額な費用や言葉の問題をなしに卵子が求められるというメリットがある反面、卵子提供でドナーに副作用が出た場合の対応や、生まれた子どもが将来、出自に悩んだ場合のケア体制の整備など課題も多い。

(2013-5-15)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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