植物のシャジクモの節間細胞やフラスモの仮根細胞の中では,原形質が細胞の中心部を大きく占める液胞の回りを薄い層をなして常に流動している。このような現象を原形質流動と呼んでいるが,狭義には細胞の外形が変わらない場合に限ってこの語を用いる。細胞の形を変化させて進むアメーバにも,やはり原形質流動がみられるが,アメーバ運動の場合には流動する原形質ゾルが先端部域でゲルに転換するという現象を伴うので一般にはこれに含めない。すべての細胞の内部では原形質は流動しているが,その動きの速さがシャジクモの場合の50μm/s,アメーバの場合の10~30μm/sなどに比べてはるかに遅く,肉眼では動きを確認できないだけのことである。これを微速映画でとると原形質の動きが一目瞭然となる。この原形質流動の生物学的重要性は高等動物の血液循環に匹敵すると考えられる。シャジクモでの原形質の動きは先に述べたように液胞の回りを動いているので,どこが力の起動点になっているのか見当がつかない。押されているのでもなければ引かれている訳でもない。この疑問を明快に解決したのが神谷宣郎と黒田清子の実験(1956)であった。シャジクモの細胞をゆるい遠心分離機にかけ,軽い部分に液胞,重い部分に原形質のみが集まるようにしたあと,細胞を絹糸でくびり分け原形質のみの細胞を人工的に作った。その結果,原形質のみの細胞内でも相変わらず周回流動がおきることを発見し,速度分布を解析してつぎの結論を出した。すなわち流動力は細胞外質ゲルと流動するゾルの界面で“滑りの力”が働く結果によるというものであった。これはくしくも筋収縮での滑り説が出た年(1954)とほぼ同じころであった。この考え方は,その後の多くの実験により支持されている。
粘菌の1種Physarumの原形質流動は,周回運動ではなく2~3分の周期をもつ往復運動であり,“滑りの力”では説明がつかなかった。しかし,この粘菌をある濃度のカフェイン液に入れ球形の液滴にさせてやると球体内で原形質は周回運動をおこすことがわかった。外部からカルシウムを奪うと動きが止まり再び加えると動きは再びおこる。この現象をさらに細かく観察すると,液滴の中で流動がおきるときには必ずゾルの中にばらばらに散在しているFアクチンが集合してゲルになっているという。前述のシャジクモの場合にも流動するゾルに面したゲル表面にアクチンフィラメントが配列しており,両者とも運動はアクチン・ミオシン系でおこりエネルギー源はATPであることが明らかになった。この図式は筋収縮においてすでに確立されたものとよく一致し,また最近ではアメーバ運動にも関連があるとも言われている。
執筆者:武田 文和
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細胞運動の一種で、細胞内の原形質が流れるように運動する現象をいう。植物細胞、とくに車軸藻類などでよく観察されるが、動物細胞を含めてほとんどの細胞でおこり、細胞の外形の変形を伴う場合もあって、アメーバ運動などの場合にはその運動機構に大きな役割をもつ。流動の形式には回転流動、循環流動、乱流動、往復流動など多くの種類がある。流動速度は普通の植物細胞では1秒間に数マイクロメートル~数十マイクロメートルの程度であるが、粘菌のように秒速1ミリメートルを超えるものもある。原形質流動の原動力については昔からいろいろの説が出されてきたが、最近ではゾル‐ゲル界面に発生する滑り力によるとする説が有力である。この説は、細胞周辺部のゲルや、内部にある網目状のゲルの表面にはアクチンのフィラメントが配列されており、この表面をゾル中のミオシン繊維が滑ることによってゾルの流動がおこるとするものである。この機構は横紋筋がアクチン・ミオシン繊維の間の滑りによって収縮することとよく似ており、筋収縮と原形質流動・アメーバ運動は同じ種類の細胞運動である可能性が強い。
[大岡 宏]
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…肉質虫綱アメーバ目Amoebidaに属する原生動物の総称。淡水,海水,湿土中,コケ類の上,または動物の消化管に寄生するなど地球上に広く分布する。 体は1個の細胞からなり,外側はプラスマレンマplasma lemmaという薄い膜で包まれる。体の原形質は等質で透明な外質と,顆粒(かりゆう)が多く流動性のある内質とに区別される。内質には核,収縮胞,食胞,ミトコンドリアなどを含む。仮足(かそく)をだして運動するが,その際は体の後方の外質のゲルがゾル化して内質流となり,体の前方に向かって流動し,先端部のプラスマレンマが前方に膨らむ。…
※「原形質流動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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