細胞が行う能動的な運動の総称。形態上は、細胞全体の変形(アメーバ運動、筋収縮、細胞分裂時の細胞のくびれなど)、細胞表面から出ている突起の運動(鞭毛(べんもう)運動、繊毛運動など)、細胞内部の運動(原形質流動、細胞分裂時の染色体の運動など)などに区別される。また、習慣上、筋細胞以外の細胞(非筋細胞)の運動を狭義の細胞運動とよんで筋収縮と区別する場合もある。
細胞運動の基本となるのは、細胞内で化学的エネルギーが力学的エネルギーに変換される過程である。これには、いくつかの主要な形式があり、それに関与するタンパク質の名をとって、アクチン―ミオシン系、チューブリン―ダイニン系などとよばれる。力学的エネルギーが有効に細胞の運動を引き起こすには、細胞内で一定の方向に力を伝達する機構が必要であり、このため、これらのタンパク質は多くの場合、細胞骨格とよばれる細胞質中の繊維構造と密接に関係している。
アクチン―ミオシン系による運動は、横紋筋の収縮についてもっともよく研究されているが、平滑筋の収縮、アメーバや白血球などのアメーバ運動、細胞分裂時の細胞質のくびれなど広範な細胞運動がこれに属すると考えられている。アクチン分子は重合して直径約6ナノメートルの細い繊維をつくる。横紋筋では細いフィラメントとよばれ、I帯に存在するが、他の細胞では微小繊維とよばれ、細胞表層近くに存在することが多い。ミオシン分子は横紋筋や平滑筋では重合して太いフィラメント(横紋筋では直径約15ナノメートル)を形成しているが、他の多くの細胞ではこのような構造は認められていない。ミオシンには、ATP(アデノシン三リン酸)を加水分解する酵素(ATPアーゼ)としての作用がある。ATPを分解して得たエネルギーを用いて、ミオシンがアクチンの微小繊維上を一定方向に滑ることが運動の原動力となっていると考えられている。
チューブリン―ダイニン系の代表的なものは真核生物(細菌以外の動植物)の鞭毛や繊毛にみられる。鞭毛や繊毛の内部には、チューブリンからなる11本の微小管があり、そのうち9本は8の字形の断面をもち対(つい)になっているためダブレット微小管とよばれる(直径約25×40ナノメートル)。ダブレット微小管上にはATPアーゼの作用をもつダイニンの突起が規則的に並んでいる。ダイニンがATPを分解して得たエネルギーを用いて、隣接するダブレット微小管どうしの間に滑り運動をおこさせ、これが鞭毛・繊毛運動の原動力となっている。
原生動物のツリガネムシは刺激を受けると、柄部を縦走している糸筋の収縮によって、柄部をすばやく短縮させる。糸筋の主成分はスパスミンというタンパク質で、ATPアーゼ活性をもたないが、カルシウムイオンと結合すると収縮する性質をもつ。ツリガネムシの柄部が刺激に反応して縮むのは、細胞内のカルシウム濃度が刺激によって高まる結果である。スパスミンと類似の性質をもつ収縮性のタンパク質はツリガネムシ以外の単細胞生物にも存在する。
細菌の鞭毛は、フラジェリンというタンパク質からなる直径15ナノメートル程度の単純な螺旋(らせん)状構造で、全体を水中でスクリューのように回転させて細菌に推進力を与える。回転運動の直接の原動力を供給するのはATPではなく、細胞膜を横切って流れる水素イオンの流れであることが知られている。
[高橋景一]
… 運動能力は動物において高度な発達をとげているが植物にもいくつかの特徴的な運動様式がみられる。動植物を通じてその基礎となるのは細胞運動で,これには鞭毛運動,繊毛運動,原形質流動,筋細胞の収縮,細胞分裂時における細胞小器官の挙動などがあるが,多くの場合そのエネルギー源はATPである。多細胞生物ではこれらの個々の細胞運動の総体が器官・個体レベルでの運動となって現れる。…
※「細胞運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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