反切(読み)ハンセツ(英語表記)fǎn qiè

デジタル大辞泉 「反切」の意味・読み・例文・類語

はん‐せつ【反切】

ある漢字字音を示すのに別の漢字2字の音をもってする方法。すなわち、上の字の頭子音声母)と下の字の頭子音を除いた部分(韻母)とを合わせて1音を構成するもの。例えば、「東」の子音は「徳紅切」で「徳」の声母[t]と「紅」の韻母[oŋ]とによって[toŋ]とする類。かえし。

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精選版 日本国語大辞典 「反切」の意味・読み・例文・類語

はん‐せつ【反切】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 漢字の字音を表わすのに、他の漢字二字の音をもってする方法。すなわち、「X、AB切」の形式によって、Xの音はAの声母(頭子音)とBの韻母と声調(全体から頭子音を除いた部分)との組み合わせたものであることを示す。たとえば、「東」の音は「徳紅切」で、「徳」の声母[t]と「紅」の韻母[uŋ]とにより[tuŋ]とする類。→反音
    1. [初出の実例]「臨沙門神珙玉篇奥所烈四声五音図及彼反音鈔等知之。一切反切不此法」(出典:悉曇私抄(1260))
    2. [その他の文献]〔韻鏡‐序〕
  3. 母音音節とその前にある音節の頭子音とを結合させて別の音節をつくること。たとえば、和歌で「としのうちに」を「としぬちに」と読むこと。
    1. [初出の実例]「反切 亡父云、おほよそ歌に、もじあまりて、いつもじが六もじになり、七もじが八もじ九もじにもなるは、つねの事なり。それにはかならず、反切の字のあるべきなり。反切とは、あいうえおの字ありて、こともじをうくるをいふなり」(出典:随筆・北辺随筆(1816)三)

反切の語誌

古くは「反音(はんおん・はんのん)」と呼ばれ、平安・鎌倉時代の音韻学書で用いられた。「反切」は中国では「韻鏡」(九〇〇頃)で用いられ、日本でも鎌倉時代以後はこの語を使うようになった。

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改訂新版 世界大百科事典 「反切」の意味・わかりやすい解説

反切 (はんせつ)
fǎn qiè

中国語の伝統的標音法。たとえば音が未知である被注字(被切字,帰字)〈東〉に対し既知の2字〈徳〉〈紅〉を用いて,〈徳紅反〉または〈徳紅切〉のように注音する形式をいう。唐代までは〈……反〉,宋代以降は〈……切〉の形をとる。〈徳紅反(切)〉において,〈徳〉を反切上字(切上字),〈紅〉を反切下字(切下字)と呼び,反切上字が声母を,反切下字が声調を含めた韻母を示す。上の反切は,tək41→tuŋ1(推定音はカールグレンによる。右肩の数字は声調で1は平声,4は入声である)のごとく,音tuŋ1を示す。反切の起源については,顔之推の《顔氏家訓》が漢末の孫炎(普通には魏の孫炎)の《爾雅音義》をそのはじめとしたことによって,唐代に武玄之《韻銓》や景審の慧琳《一切経音義》序に後漢の服虔(ふくけん)が反切を作ったという説がみえはするものの,清朝末に至るまで孫炎説が支配的であった。章炳麟(しようへいりん)が《国故論衡》(1910)巻上の〈音理論〉において,《漢書》地理志の広漢郡,遼東郡の注にみえる後漢の応劭(おうしよう)の反切を指摘するや,反切の起源は《漢書》に対する服虔,応劭の注にさかのぼると考えられるようになる。ただし,約1世紀前に郝懿行(かくいこう)が《反語攷》(《曬書堂(さいしよどう)文集》巻七)において,すでにより詳しくこれを指摘している。従来,反切は,双声畳韻,二合声(二合音)の基礎の上に,中国独自の展開として出現したとされていたが,孫炎から後漢の霊帝・献帝間(168-220)の人とされる服虔,応劭に時代が引き上げられてからは,反切の出現は,仏教文化の伝来と関係ありと漠然と考えられるようになった。ただし,小川環樹のように仏教文化の影響によるのではなく,道教の技術のなかから生じたとする者もある。陳澧ちんれい)は,〈反切系聯法〉という反切研究法を案出した。彼にあっては,反切上字,反切下字を別個にとりあつかう傾向があったが,今日では反切上・下字の相互関係にも注意が払われている。
字音
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「反切」の意味・わかりやすい解説

反切
はんせつ

「反音(はんおん)」「翻切(ほんせつ)」「切語(せつご)」などともいう。中国で、各字の字音を表示するために漢字二字の字音を組み合わせて示す方法。たとえば、「東」は反切「徳紅反」で示され、その上字(父字ともいう)「徳(tək)」の頭子音t-と、下字(母字ともいう)「紅(ɦoŋ)」の韻および四声-oŋとを組み合わせて、帰字「東」の字音toŋを導くものである。中国において、反切によって字音が示されたもっとも古い例は、2世紀の服虔(ふくけん)・応劭(おうしょう)の『漢書注』とされ、それ以前は「東音凍」とか「東読若凍」のように、同音の漢字で示されていた。反切が発明されてからは便利なため、近年に至るまで主たる表音法として利用された。なお、唐代までは「何何」が用いられ、宋(そう)代以後「何何」と「切」字に改められた。日本でも、この反切が字音学習に大いに利用されたが、とくに五十音図が発明されてからは、それによって反切が行われるようになった。明覚(めいかく)の『反音作法』(1093)はその方法を詳論したものである。たとえば「蒙 莫紅反」において、「莫(マク)」の「マ」と「紅(コウ)」の「ウ」とを取り出して結合させるが、その際、子音を表す「マ」を、下字の音「コウ」の捨てたほうの仮名「コ」と五十音図で同韻となるマ行の「モ」に変換して、帰字「蒙」の音「モウ」を求める方法である。反切上字から単音(この例ではm-)を導き出すために、五十音図が巧妙に利用されたものである。なお、日本で利用された反切の三大典拠は顧野王撰(こやおうせん)『玉篇(ぎょくへん)』(梁(りょう)大同9年〈543〉ごろ)、陸法言(りくほうげん)等撰『切韻』(隋(ずい)仁寿元年〈601〉)、玄応(げんのう)撰『一切経音義』(唐貞観9年〈635〉~龍朔3年〈663〉の間)と考えられる。

[沼本克明]

『明覚著『反音作法』(『国語学大系 第四巻』所収・1936・厚生閣)』『小西甚一著『文鏡秘府論考 研究篇 上』(1948・大八洲出版)』『馬渕和夫著『日本韻学史の研究』全三巻(1962~65・日本学術振興会)』

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普及版 字通 「反切」の読み・字形・画数・意味

【反切】はんせつ

二字の頭音尾韻によって音を示す法。東tongは「tk、紅hongの反」。反語。〔夢渓筆談、芸文二〕切の學は、本(もと)西域に出づ。人の字を訓する、止(た)だ讀みて某字の如くすと曰ふ。未だ反切を用ひず。然れども古語に已に二聲合して一字と爲すり。~何不(かふ)を盍(かふ)と爲す~のなり。西域の二合のに似たり。

字通「反」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「反切」の意味・わかりやすい解説

反切
はんせつ

漢字の音を示すために用いられる表音法の一つ。「A,BC反 (ないし切) 」の型で表されるもので,問題のA字 (反切帰字) の音を,Aと声母 (紐〈チュウ〉ともいう。語頭子音) の同じB字 (反切上字,父字) と,Aと韻母を等しくするC字 (反切下字,母字) の組合せで示す。たとえば,「東」の字の音を知るには,「東,徳紅ノ反」から「徳」tək のt-をとり,「紅」 ɦuŋ の-uŋ とを組合せれば,「東」= tuŋ が得られるわけである。単音文字をもたない中国で,漢字の音を示すのに便利な方法として近年まで用いられた。日本では五十音図を用いて反切を行う「仮名反 (かながえし) 」が行われた。上の例でいえば,「トク」 (徳) からタ行子音を求め,それに「コウ」 (紅) の子音を除いた部分を組合せて「トウ」 (東) を導き出した。

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百科事典マイペディア 「反切」の意味・わかりやすい解説

反切【はんせつ】

中国音韻学の術語。呉の孫炎〔?-260?〕が創始したと伝える。漢字の1字(1音節)の音を頭子音と母音の二つに分けて示す。たとえば〈東〉(tung,ピンインではdong)は〈徳紅反(徳紅切)〉とあれば,徳で声母t-を,紅で韻母-ungを表し,2字でtungと発音すべきことを示す。日本ではこの反切を説くために五十音図が考案された。
→関連項目字鏡集切韻

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世界大百科事典(旧版)内の反切の言及

【音韻学】より

…後漢になって経典の研究が進むにつれ,語の解釈を音の同一ないし近似に求めるという試みが行われたが,それは音の分析についてはまだはなはだ不完全であった。やがて音節構造の分析が進んで,反切という表音技術が発明された。これはある語の音節構造を表すのに,その語の頭子音と同じ頭子音をもつ他の常用文字と,その語の韻と同じ韻をもつ他の常用文字の2文字の組合せでその語の音韻を表したものである。…

【字音】より

…Iを声母(声類),MVF/Tを韻母(韻類)と呼ぶ。 韻書では声母と韻母の組合せで音を示す〈反切(ハンセツ)〉が伝統的である。東/tʌu1/を徳/tʌk(4)/紅/ɣʌu1/の反(ハン),すなわちt+ʌu1=tʌu1とする等である。…

※「反切」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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