中国の等韻図の一種。著者不明。全体が43転に分けられる点,平声,上声,去声の3声と入声との対応,転図内部の字母配列の順序など,すべて宋の鄭樵《通志略》に含まれる《七音略》と同じである。明らかに同一の系統のものだが,-mに終わる音節をあつかった転図のうち,咸摂に属するものを深摂に属するものから離して,宕摂をあつかう転図の直前におく《七音略》と,深摂・咸摂双方を全書の終りに近く曾摂の直前に置く《韻鏡》とでは,前者のほうが《切韻》原本における咸摂所属の一部の韻の配列位置を意識している順序と考えられる点,この種の韻図のより古い形をうけるものであるかもしれない。曾摂の位置は双方ともに全書の最後尾だが,これも《切韻》原本での曾摂の場所と関係しており,ともにこの系統の韻図の原形であろう。宋の魏了翁が漢字音について〈東に始まり北に終わるは其の音なり〉(《鶴山先生大全集》巻一〇九)というのは,曾摂の〈北〉を終りとする点で,実際〈北〉の字を含む韻を最後に置く韻書があるように見えかねないが,逆に等韻図の中での〈北〉の字の位置によってものを言っていると考えることもできるだろう。《韻鏡》は中国では早く滅んだが,日本では南宋刊本の系統のものが繰り返して重刻され,江戸時代に至るまで非常に多くの研究書を生んだ。
→韻図
執筆者:尾崎 雄二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国の韻図。作者不明、唐末・五代の作と推測される。中国語では、漢字の音は1音節からなるが、その音節を初頭子音である声母(せいぼ)と、それを除く残りの部分である韻母(いんぼ)(母音、音節末尾子音、声調などからなる)とに分け、横軸に声母の相違をとり、縦軸に韻母の相違をとって構成した図表(転図という)の中に、『広韻』など切韻系韻書に含まれる約3700の音節(小韻)を代表する漢字を配置して、切韻系韻書が反映する隋(ずい)・唐時代の複雑な発音組織を、あたかも鏡に映すように簡単明瞭(めいりょう)に図示しようとしたのが『韻鏡』である。古代インド音韻学の影響があるといわれ、日本語の五十音図と同様の構成原理をもつが、中国語は音節数が多いため、43枚の転図を必要とした。現存の『韻鏡』は南宋(なんそう)の張麟之(ちょうりんし)が解説をつけて刊行したテキストに由来するが、中国では早くに失われ、日本にのみ伝存して、漢字の読音を定める根拠とされ、江戸時代を中心に盛んに研究や注釈が行われた。現在では隋・唐音研究の基本資料として日本、中国を問わず重要視されている。
[平山久雄]
『馬淵和夫著『韻鏡校本と広韻索引』新訂版(1969・巌南堂書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一般に韻図と等韻図は通じて用いられるが,一方で韻母を開口呼〈介母ゼロ〉,合口呼〈介母‐u‐〉,斉歯呼〈介母‐i‐〉,撮口呼〈介母‐iu‐〉の4呼の別によって区分する韻図などもあるから,厳密にいえば全同でなく,等韻図は韻図の一種ということになる。現存最古の韻図は,唐末五代の作とされる,等韻図の《韻鏡》である。韻図の出現は,韻母部分を中心とした音韻体系の把握がさらに声母部分の観察,分析へと進んだことを意味する。…
※「韻鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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