岡山藩の雅楽家岸本芳秀(よしひで)(1821―90)らが、1870年(明治3)奈良・春日(かすが)神社の倭舞(やまとまい)や東遊(あずまあそび)を参考にしてつくった雅楽風の音楽。その舞を吉備舞という。器楽曲は少なく、大部分歌曲で、箏(そう)が主奏楽器として扱われ、竜笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)、笙(しょう)が助奏楽器である点が、雅楽とは違っている。もっとも簡略には、歌と箏1面の場合も多い。79年には芳秀の高弟小野元範のとき、黒住(くろずみ)教の祭典楽に採用された。また、88年には芳秀の息子芳武の高弟尾原音人(おとんど)が金光(こんこう)教祖の大祭に吉備楽を奉納し、数年後に金光教の祭典楽となった。
吉備楽は祭典楽、余興楽(奉納楽)、家庭楽に分けられる。祭典楽は開扉(かいひ)、献饌(けんせん)、玉串奉奠(たまぐしほうてん)など祭式の行事にあわせる音楽。余興楽は祭典後に奉納する楽舞で、『桜井の里』(楠公(なんこう)父子の別れ)、『作楽詣(さくらもうで)』(児島高徳(たかのり)の故事)など、家庭音楽にはこの余興楽舞のほか『明石(あかし)の浦』『高砂(たかさご)』などがある。
[吉川英史]
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