同一の鋳型または原型を使用して鋳造した複数の鏡をいう。笵は鋳型のことである。中国鏡として同じ鋳型で作った同笵鏡の多いのは魏の三角縁神獣鏡であるが,後漢の四神鏡や神獣鏡などにも少数の先行例を見る。日本でも仿製(ぼうせい)の三角縁神獣鏡や内行花文鏡にその実例がある(仿製鏡)。同一の鋳型を反復使用すると,鋳型に亀裂や剝離などの損傷ができるので,それによって鋳造の先後を推定することが可能である。損傷がはげしい部分は鋳型を補修し,補刻を加えることもあったので,同笵鏡でも細部の相違するものがある。いずれにしても,中国製の同笵三角縁神獣鏡の場合には,その全部を同時に日本に輸入し,各地の古墳に分けて副葬している事実から,その配布の事情を推論することができる。
同一の原型によって複数の鋳型を作る方法が古代に存在したという説があるが,これは理論として考えたもので,実例を遺物として示すことはできない。ただし,5世紀以降の中国鏡には,既存の製品を踏み返して作った再版鏡があって,原鏡とあわせて日本に輸入したので,これも各地の古墳に分かれて出土している。この種の踏返し鏡の特徴は,原鏡よりもわずかに縮小することのほか,原鏡に型土を押し付けて鋳型を作る過程で,型ずれを生じたり,文様の鮮明さを欠くことである。鋳造した鏡を見ただけで,ただちに同笵鏡と断定するのは危険であるとする観点から,同笵鏡も,踏返し鏡およびその原鏡も,すべてを一括して,同型鏡と呼ぶことを主張する人があるが,むしろ3者の識別に努力するべきであろう。
→鏡
執筆者:小林 行雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
同じ鋳型(いがた)を用いて鋳造した鏡の一群。三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)においてとくに顕著にみられる。鋳型は真土(まつち)によったと推定され、製品にうかがえる鋳型の損傷、補修、改作などの表出から鋳造の先後関係を読み取ることができる。なお、三角縁神獣鏡は、真土型では複数の鋳造は無理だとして、原型からの踏み返しでつくった複数の鋳型による製作を唱えこれを「同型鏡」とよぶ意見もあるが妥当ではない。むしろ、5世紀末~6世紀にかけての画文帯神獣鏡の一群がその製作法をとることが指摘されている。しかし、これも原鏡を含んでいるので、「同型鏡」とよぶのは適切でない。三角縁神獣鏡の同笵鏡の分有関係から、それをもつ畿内(きない)と地方の古墳被葬者の間に緊密な政治的紐帯(ちゅうたい)が形成されていたとする説が注目されている。なお、同笵鏡の理化学的な分析の結果から個々に成分が異なるというデータが出て、新たな問題提起がなされつつある。
[橋本博文]
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狭義には,一つの鋳型で鋳造された複数の同一型式の鏡をいう。広義には,一つの原型からおこした複数の鋳型で鋳造された同型(どうけい)鏡をも含む。広義の同笵鏡は舶載鏡・仿製(ぼうせい)鏡のいずれにも数多くみられる。とくに顕著なものは三角縁(さんかくぶち)神獣鏡で,京都府椿井(つばい)大塚山古墳から発見された32面には23種,28面の同笵鏡があり,畿内をはじめ全国各地の30基以上の前期古墳と同笵鏡を分有するという。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに,三国六朝鏡では,三角縁神獣鏡が注目される。魏・晋と邪馬台国との数次におよぶ交渉によって入手されたと推定される三角縁神獣鏡には,同じ一つの鋳型を使って複数の製品を作った同笵鏡が多数存在するのが特色となっている。この同笵鏡の分布状況から,大和を中心とした権力と地方権力との交渉過程を復原する説があり,同笵鏡論とよばれている。…
※「同笵鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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