改訂新版 世界大百科事典 「吹打」の意味・わかりやすい解説
吹打 (すいだ)
chuī dǎ
中国の民間器楽合奏様式の一種。チャルメラ,横笛,管子(かんし),笙などの吹奏楽器と,数種の鑼(ら),太鼓,鈸(はつ)(シンバル),板(はん)(カスタネット)などの打楽器が中心で,弦楽器もときに加わるが補助的である。各地の劇楽や民間小曲を指や舌を駆使して自由自在に吹奏される旋律に,大小多種の打楽器の豊富な音色とリズムが融合する。編成は10人から100余人。打楽器の奏者が多くその活躍が目だつので,鑼鼓,鼓楽などの呼称もある。鳥や声楽の模倣を得意とする山東鼓吹や河北吹歌は,奏者が3~5人と少なく,しかも吹奏者の技巧を聞かせるものなので,この類を鼓吹楽として区別する。一方,純粋の打楽器合奏のみの清鑼鼓まで吹打に入れる説がある。この説では,民間器楽合奏を吹打と糸竹に大別し,前述の鼓吹,吹歌の類も吹打に入れている。吹打を楽器の音量により粗吹鑼鼓と細吹鑼鼓に分ける。粗吹鑼鼓は大きな太鼓,鑼,板にチャルメラを響かせ,豪快勇壮に演奏し,往時は将軍の凱旋などの軍楽,役所の儀式音楽,豊作,大漁の祝賀から,祭り,雨乞い,ペーロン(競舟),婚礼・葬式の行列など多用された。浙東鑼鼓,潮州大鑼鼓,山西八大套がとくに有名。細吹鑼鼓は小型の太鼓,旋律打楽器の雲鑼や木魚などに,笛,笙を主とし,諸行事,慶事,葬礼などや,仏教,道教の宗教音楽(江南で〈梵音〉という)として使われた。陝西鼓楽,蘇南吹打が代表的である。また屋内で奏するのを座楽,街を行進して奏するのを行楽と区別する。座楽は組曲形式をとり,打楽器合奏の鑼鼓段をふくむ。行楽は座楽の一部をとり数曲を繰り返し華やかに奏する。吹打の淵源を遠く漢代や唐・宋に求める説もあるが,文献的に今日につながるのは,明代の多種の楽器を使用する十番鼓という打楽器合奏に吹奏楽器が加わって吹打を形成したものである。民衆の諸行事と関係の深かった吹打は,賤業視された吹鼓手や,農民,僧侶により伝承されてきたが,解放後,発掘整理が続けられ芸術音楽に発展している。
なお糸竹合奏のほうは,糸竹と弦索(げんさく)に分けられる。糸竹は胡弓,三弦,琵琶,揚琴,箏に笛,笙などと小音量の打楽器を加え優美で装飾の多い演奏をする。江南糸竹,広東小曲,福建南音,四川揚琴が著名で,とくに都市の文人に愛好された。弦索は弦楽器のみの合奏で,北京の北方弦索,潮州箏譜など典雅なものだが,今日では《弦索十三套》ほか,わずか数曲が演奏されるにすぎない。
執筆者:吉川 良和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報