改訂新版 世界大百科事典 「図書分類法」の意味・わかりやすい解説
図書分類法 (としょぶんるいほう)
classification of book
およそ人知は,道具の使用と並んでものに命名し,対象を分類することによって飛躍的に増大してきたが,時空を超えたコミュニケーション手段としての文字の発明(第1次情報革命),書字記録としての図書の生産は,やがてその図書そのものの分類をせまることになった。個人蔵書でも4000~5000冊に達すると,書架に図書を並べる並べ方にくふうをしないともはや見当だけでは速やかに望む書物が探し出せない。物理的には書物のサイズごとに配架することもできるし,また購入順に空間を埋めてゆく方法も考えられる。書物は物理的な固形物であるとともに,人知の宝庫としての記録情報の乗りものでもある。図書分類はこの関係の体系的な処理方法としてはじまっている。
そして,利用者が書架に接して求める資料を探し出しやすいように書物を分類配架する方法が考案された。これを〈書架分類〉という。類似の書物が一括して見渡せるため便利であり,一般に蔵書数のそれほど多くない,公開書架制をとる小図書館や資料室では,書架に本が分類してあるだけで十分である。しかし《歴史と文学の旅》といった複合主題の場合,利用者は両方の主題からアプローチしたいが書物は1ヵ所しか空間を占めることができないことが短所である。しかるに,物そのものを代用するのに物の名前があるように,書物そのものの代りをするものとしての書名があり,その書名にもとづき,その実物を手にとらないでもその書物の内容のおよそを見当づけできるものとして図書目録というものがある。図書目録とはいわば書物の戸籍簿である。その本はだれが書いた,どんな名前の本で,いつ,どこで出版され,どんな大きさの本であるかなど,記述されている内容を〈書誌記述〉といい,それをカード化するなり,冊子に列挙することもできる。こうしてカード化しておけば,先の複合書名のものに出会った場合,2枚のカードにして,双方の分類の個所に入れておくことができ,不便は除かれる。こうした実物の代用としてのカード上の操作で,資料が分類されているものを〈書誌分類〉という。さて,自然環境を分類して整序する上での一つのモデルは,すでに植物学にある。そしてその分類は1本の木の分枝のように袋小路をもった分類体系をなす。この分類学は,ある種の植物の位置をその分枝のどこかに固定してしまうことに主眼があった。しかし今日,資料の検索は書物という形態だけにとどまらず,学術雑誌の一論文の検索ということになると,論文名はどうしても複合名になることが多く,その分類上の位置を固定できなくなる。そうしたところから論文名に含まれるキーワードによる検索がコンピューターの出現によってさらに便利になってきた。カードからパンチカード,磁気テープの利用によって,書誌情報の検索にしだいに固定分類の必要も軽減されてゆく時代が来つつある。
書物の分類は人知の増大・拡張の反映でもあって,知識の分類と相たずさえながら進展してきた。図書分類の近世・近代における淵源は,17世紀のはじめF.ベーコンの行った知識分類である。彼は,学問の世界を人間心理の三つの働き,すなわち〈理性reason〉と〈記憶memory〉と〈想像imagination〉によって三大別した。理性の働きによって生まれる学問を広義の〈哲学philosophy〉とし,この中には〈自然哲学natural philosophy〉を含み,これは今日の自然科学にあたる。また記憶の働きによって生じる学問として〈歴史history〉をあげ,この中に〈自然史natural history〉を含めている。これは博物学と訳されたが,化石等にみられるように自然にも歴史があるという見解を含んでいる。さらに想像の働きによって生まれる学問を詩や文学としておさえている。この基本分類がアメリカ議会図書館の初期分類でもあり,ディドロらによるフランスの《百科全書》の分類にも採用されてゆく。ちなみに日本の百科事典《和漢三才図会》は,〈天才〉〈地才〉〈人才〉,つまり天・地・人の三大分類によっていっさいのものを区分するという構えが基本になっている。
しかし知識と書物の増大は,学問分類に追従するだけでは処理が困難となり,記号に内容をはめてゆくという実際的な分類法が出現することになる。1876年に発表されたデューイMervil Dewey(1851-1931)の《十進分類法(Dewey)Decimal Classification》(略号DCまたはDDC)がその代表例である。これはすべての図書を(1)哲学,(2)宗教,(3)社会科学,(4)語学,(5)自然科学,(6)応用科学,(7)美術,(8)文学,(9)歴史の9類に分けて1から9の記号を,さらに総記として0をあてて分類するものである。当時まだ閉架式であった図書館では,利用者が請求する本を探すのに,その書架固有の番号をもってした。つまり分類番号と書架番号とは別々であった。書架の方は形態別なり受入れ順なりに配架してあったからである。これに対しデューイ創案の分類法は,新しい領域の拡大に展開が便利であるだけでなく,開架制に伴い分類目録と書架分類の一致をはかるという目的も達せられた。これをモデルに,森清は《日本十進分類法Nippon Decimal Classification》(略号NDC)を考案した(1929)。その構成は(0)総記,(1)哲学,(2)歴史,(3)社会科学,(4)自然科学,(5)工学・技術,(6)産業,(7)芸術,(8)語学,(9)文学である。
また同じ十進法でありながら自然科学に重きを置いたものに1905年刊行の《国際十進分類法Universal Decimal Classification》(略号UDC)がある。分類項目数およそ13万のうち,技術が56%,自然科学が27%を占め,豊富な補助記号を使って細かく分類されており,自然科学系の資料分類に使われる。
また十進法をとらない分類としては,1901年以来刊行されている《アメリカ議会図書館分類表Library of Congress Classification》(略号LC)がある。これは,19世紀末100万を超える蔵書をかかえた議会図書館では,もはや先のベーコンの学問分類を基礎としたものでは充足できず,むしろコントの学問体系にヒントを得て,列挙式にアルファベット(I,O,W,X,Yを除く)と序数との組合せを用いている。なお,1963-68年刊行の日本の《国立国会図書館分類表National Diet Library Classification》(略号NDL)は,記号法としてA~Zのアルファベットの1字ないし2字と1~999の数字の組合せによる非十進方式をとっている。
以上のような図書の主題に見合った出来合いの分類項目に当該図書をあてはめてゆく方式とは違って,その書名構造を分析することによって,複合書名のようなものもとらえる側面(ファセット)に従って分類記号をそれぞれ構成してゆく方法をとるものに,インド人ランガナータンShiyali Ramanrita Ranganathan(1892-1972)の創案(1933)にかかる〈コロン分類法Colon Classification〉(略号CC)がある。
なお,東洋には清の乾隆帝が収集した叢書を分類したいわゆる《四庫全書》の分類である〈四庫分類〉,経,史,子,集が知られている。さらに国書の収集に努力した塙保己一の《群書類従》は神祇以下列挙式に25部門に分類されている。
→日本図書コード →分類
執筆者:小野 泰博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報