改訂新版 世界大百科事典 「管理フロート」の意味・わかりやすい解説
管理フロート (かんりフロート)
変動為替相場制の一種で,為替相場の決定を市場の需給関係だけにゆだねた場合,経済政策上望ましくない変動が生じると考えられるとき,政策当局(中央銀行や通貨管理局)が適宜外国為替市場で外貨の売買を行って為替相場の変動を管理する制度を指す。フロートfloatとは,為替相場の変動範囲に対する政策的制約が外されるため,あたかも波間を漂う小舟のように為替相場が推移する状態を表現したもので,為替相場の変動に対して政策的管理がいっさい行われないものをクリーン・フロートclean float,管理の程度の強いものをダーティ・フロートdirty floatと呼ぶこともある。後者の表現には,政策当局が意図的に市場の実勢をゆがめるような操作をしているという外国側の非難の意味が含まれていることが多い。1971年8月15日,アメリカがドルの金交換性を公式に停止したことから,第2次大戦後IMF(国際通貨基金)のもとで採用されてきた安定相場制(調整可能な釘付け相場制)は崩壊し,主要国は変動相場制へ移行した。同年12月にワシントンのスミソニアン博物館で開催された10ヵ国蔵相会議では,主要国為替相場の多角的調整と変動幅の上下各2.25%への拡大(それまでは各1%以内)が合意され,ワイダー・バンドのもとでの安定相場制への復帰が試みられた。しかし,各国の国際収支不均衡,国際的なインフレ率格差,大規模化した国際資本移動等を背景としてスミソニアン合意は短命に終わり,73年2月には日本が,また同年3月には欧州諸国が再びフロート制の採用を余儀なくされるに至った。これが主要国通貨の全般的な管理フロート時代の始まりである。
安定相場制を前提とした当初のIMF協定は,76年1月のキングストン(ジャマイカ)における暫定委員会での合意(ジャマイカ合意)を経て改正され(1978年4月1日発効),各国は新協定の遵守とIMFによる監視のもとで自国に適した為替相場制を比較的自由に選択できるようになった。IMFは,協定改正の合意ができるまでの間の応急措置として〈変動相場制の運営に関するガイドライン〉を定め,加盟国の利己的な行動が為替市場の混乱や保護主義につながるのを防止することとしたが,このガイドラインの考え方は若干修正されて第2次改正後の協定に盛り込まれている。それによれば,加盟国は,(1)国際収支の調整を妨げたり不公正な競争上の優位を得る目的で為替相場を操作しないこと,(2)為替市場の無秩序な状況に対処するために必要と思われる場合には,為替市場へ介入すべきこと,および(3)介入に際しては他の加盟国の利益にも考慮を払うべきこと等の原則に従わねばならず,他方IMFは,年次協議,特別協議その他の機会を通じて加盟国の為替相場制の運営を厳しく監視することとされている。
管理フロート制は,1973年,79年の2度にわたる石油危機や世界的スタグフレーションをともかくも乗り越えてきたが,為替相場の変動が不必要なほど大きいのではないかという見方も少なくない。しかし,主要諸国による協調介入や目標相場圏(ターゲット・ゾーン)の設定といった改善案が実効を奏するためには,これらの国の間で国内経済政策の協調がいっそう進められることが必要である。
執筆者:天野 明弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報