国立大学法人法に基づいて設置された、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構傘下の国立の研究所。英語名はNational Institute of Genetics。略称は遺伝研、NIG。所在地は静岡県三島市。
日本遺伝学会など関連学会の強い要請に基づき、遺伝学の総合研究、応用、人材育成などを行う唯一の研究機関として、1949年(昭和24)に文部省(現、文部科学省)の直轄研究所として設立された。1984年に文部省直轄から大学共同利用機関へ改組・再編された。1988年からは、総合研究大学院大学の遺伝学専攻を受け持っている。2004年(平成16)に法人化され、情報・システム研究機構の構成機関となった。当初は3研究部門でスタートしたが、現在は11研究部門と36の研究室を抱える。人間の優生をも含めて生物の形質改良を実現することにより、衣食住を豊かにすることが研究所の使命となっている。
1953年に生命の設計図であるDNAの二重螺旋(らせん)構造が解明されて以来、遺伝学の急速な発展を背景に、ゲノムに書き込まれた遺伝情報と内外環境との相互作用で決定される生命の複雑なシステムの解明を目ざしている。研究対象は、形質遺伝、細胞遺伝、発生遺伝、進化遺伝、育種遺伝、変異遺伝、人類遺伝、微生物遺伝、集団遺伝、分子遺伝など多岐にわたる。各グループの枠を超えて所内研究員が協力するプロジェクト研究も盛んに行われ、窒素固定能をもつイネの研究、放射線の遺伝に及ぼす影響、組換えDNAに関する研究、環境汚染が動植物の耐性や種社会に及ぼす遺伝的影響などの諸問題が取り上げられている。葉緑体分裂による細胞周期制御機構の解明、福島県三貫地(さんがんじ)貝塚出土の3000年ほど前の縄文人の歯から遺伝子の検出に成功し核ゲノムの一部配列などの基礎研究を行ったことでも世界的な評価を受けた。
研究基盤を支える支援の中核拠点でもあり、マウス、イネ、ムギ、ショウジョウバエ、線虫、アサガオなど生物の遺伝子資源を蓄積し、有用実験生物の開発などを行う国家プロジェクトの「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP:National BioResource Project)」の本部事務局が2014年度まで置かれた。ほかに遺伝データベースの情報を提供する「日本DNAデータバンク(DDBJ:DNA Data Bank of Japan)」、スーパーコンピュータを活用し、DNAを解読するシークエンス事業も行っている。
当研究所の研究員としては、「中立進化説」を提唱した木村資生(もとお)(1924―1994)や「ほぼ中立説」を唱えた太田朋子(おおたともこ)(1933― )らが有名である。当時、進化論は環境に適し、有利なものが生き残るダーウィンの自然選択説が有力だったが、木村は生存に有利でも不利でもない中立的な突然変異遺伝子が偶然によって広がり進化が起こりうるという中立説を発表。太田はこれを受け、わずかに不利な状況でも起こりうることを発表、世界的に評価された。
[玉村 治 2018年7月20日]
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