国選弁護(読み)こくせんべんご

改訂新版 世界大百科事典 「国選弁護」の意味・わかりやすい解説

国選弁護 (こくせんべんご)

刑事訴訟において裁判所または裁判長被告人のために弁護人を付し,その弁護にあたらせる制度。すべての被告人・被疑者は,みずから弁護人を選任する権利を有する(憲法37条3項,刑事訴訟法30条1項--この場合を〈私選弁護〉という)が,それだけでは被告人の保護のために不十分なので,この制度が採用されたのである。

 現行法上国選弁護が認められるのは,以下の場合である。第1に,被告人が貧困その他の事由でみずから弁護人を選任することができない場合であり,この場合に被告人から請求があったときは,裁判所は弁護人を付さなければならない(憲法37条3項,刑事訴訟法36条)。第2に,被告人が未成年者,老齢70歳以上の者,聾啞者のときや,心神喪失心神耗弱(こうじやく)の疑いがあるときなど,弁護人の補助をとくに必要とする事情があるのに,被告人に弁護人が付いていないか,付いていても出頭しない場合であり,この場合には裁判所は職権で弁護人を付することができる(刑事訴訟法37条,290条)。第3に,死刑または無期もしくは長期3年をこえる懲役禁錮にあたるような重大事件において,被告人に弁護人が付いていないか,付いていても出頭しない場合であり,この場合には弁護人なしに開廷することはできない(必要的弁護事件)ので裁判長は職権で弁護人を付さなければならない(289条)。

 私選弁護の場合には弁護士以外の者が特別弁護人となることもあるが,国選弁護人は必ず弁護士の中から選任される(38条)。選任は裁判長が行うが(刑事訴訟規則29条),実際の具体的人選は各単位弁護士会にゆだねられており,各弁護士会では,あらかじめ名簿に登録した-受任の意思のある-弁護士の中から順次配置し,当人内諾を得たうえで裁判所に通知し,これに基づいて選任がなされる。

 私選弁護人と国選弁護人とでは,このように選任のされ方は異なるが,弁護人としての権限という点では,両者の間に実質的な違いがあるわけではない。国選弁護人は,旅費日当,宿泊料および報酬を請求することができる(刑事訴訟法38条2項)。この国選弁護人に支払われる旅費等は訴訟費用に含まれ,場合によっては被告人の負担とされることがありうる。もっとも,被告人が貧困のためこれを納付することができないことが明らかなときは,その負担を命ずることはできないし,また負担が命じられた場合にも,被告人が貧困のためこれを完納することができないときは,その執行の免除を申し立てることができる(181条1項,500条)。

 1996年の司法統計により実際の運用状況をみてみると,地方裁判所において私選弁護人の付いた被告人は全体の30.0%であったのに対し,国選弁護人の付いた被告人は68.4%,簡易裁判所では私選12.4%に対し国選84.6%(ただし略式命令事件を除く)であり,国選弁護への依存度が相当に高いことがわかる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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