裁判所が選任する弁護人。貧困などの事由により被疑者・被告人が弁護人を選任することができない場合、必要的弁護事件(死刑にあたる事件など、弁護士がいなければ公判を開廷できない事件)にもかかわらず弁護士がいない場合などに選任される。
国選弁護人は、以前は、被告人についてのみ認められていたが、2004年(平成16)の刑事訴訟法改正により、被疑者・被告人に共通する国選弁護人制度が整備された。また、これに伴って創設された日本司法支援センター(愛称「法テラス」)が、国選弁護人の選任等の業務を扱うこととなった。
[田口守一 2018年4月18日]
被疑者の国選弁護人は、被疑者の請求によって選任される場合と裁判所の職権によって選任される場合とがある。請求による選任は、被疑者に対して勾留状(こうりゅうじょう)が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないとき、裁判官が、その請求により被疑者のため弁護人を付さなければならない(刑事訴訟法37条の2第1項)とされている。2016年の刑事訴訟法改正以前は、国選弁護人の選任を請求できる事件が死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる事件に限られていたが、上記法改正によりこの限定がなくなり、すべての事件について一定要件の下で国選弁護人の選任を請求することができることとなった。選任時期は、勾留状の発付以後とされるが、勾留を請求された段階でも請求することができる(同法37条の2第2項)。選任時期が逮捕時とされなかったのは、新たな国選弁護人選任手続を逮捕の時間的制限内で行うのは困難であるとされたからである。国選弁護人対象事件の被疑者には、逮捕時に国選弁護人選任請求権の告知もなされる(同法203条3項)。国選弁護人を請求するには、資力申告書を提出しなければならない(同法37条の3第1項)。その資力が基準額以上である被疑者は、あらかじめ弁護士会に私選弁護人の選任の申出をしなければならない(同法37条の3第2項)。いわば私選弁護人前置主義がとられているが、国選弁護人制度には公的資金が投入されるので、その制度趣旨である貧困等により弁護人を選任することができないとの要件を適正にして、国民に対する説明責任を果たそうとするものである。
職権による選任は、精神上の障害その他の事由により弁護人を必要とするかどうかを判断することが困難である疑いがある被疑者について、裁判官が、必要があると認めるときは、職権で弁護人を付することによってなされる(同法37条の4)。裁判官は、国選弁護人対象事件のうち、とくに死刑または無期の懲役もしくは禁錮にあたる事件については、職権で、さらに弁護人1人を追加して選任することができる(同法37条の5)。
捜査段階における弁護人の権利としては、接見交通権、勾留理由開示請求権、勾留取消請求権、勾留・押収等の裁判に対する準抗告権、接見制限・押収処分等に対する準抗告権、証拠保全請求権などがある。被告人の弁護人の場合と異なり、各種令状の執行に立ち会う権利はない。取調べの立会いについても明文規定はない。
[田口守一 2018年4月18日]
被告人の国選弁護人の選任には、必要的な場合と任意的な場合とがある。必要的国選弁護にも、請求による場合と職権による場合の二つの場合がある。被告人の請求による国選弁護人の選任は、被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないとき、裁判所が、被告人の請求により国選弁護人を付する(刑事訴訟法36条)とされている。憲法37条第3項に基づく国選弁護である。ただし、この場合にも資力申告書の提出および私選弁護人前置主義が定められている(刑事訴訟法36条の2、36条の3)。したがって、被告人の資力が基準額を超える場合には、弁護士会に対する弁護人選任の申出をなし(同法31条の2第1項)、弁護士会から弁護人となろうとする者がない旨の通知を受けることが必要となる(同法31条の2第3項)。
いわゆる必要的弁護事件である死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することができない(同法289条1項)。かかる事件について弁護人がいないか、弁護人がいても不出頭の場合には、裁判所が職権で弁護人を付する(同法289条2項)。なお、不出頭のおそれがある場合にも弁護人を付することができる(同法289条3項)。
任意的国選弁護にも、三つの場合があり、(1)被告人が未成年であるとき、年齢70歳以上の者であるとき、耳の聞こえない者または口のきけない者であるとき、心神喪失または心神耗弱(こうじゃく)者である疑いがあるとき等、とくに保護を要する被告人であって、その者に弁護人がいないときは、裁判所は職権で国選弁護人を付することができる(同法37条)。また、(2)被告人が未成年である等上記の要件があってすでに弁護人が選任されている場合であっても、その弁護人が出頭しないときには、裁判所は職権で国選弁護人を付することができる(同法290条)。(3)弁護人に不出頭のおそれがある場合については前述のとおりである。
[田口守一 2018年4月18日]
2004年に制定された総合法律支援法により、捜査段階と公判段階を通じた国選弁護人を供給する機関として、日本司法支援センターが設置された。裁判所もしくは裁判長または裁判官(以下「裁判所等」という)は、国選弁護人を付すべきときは、支援センターに対し、国選弁護人の候補を指名して通知するよう求める(総合法律支援法38条1項)。支援センターは、遅滞なく、国選弁護人契約弁護士(支援センターとの間で国選弁護人の事務を取り扱う契約をしている弁護士)のなかから、国選弁護人の候補を指名し、裁判所等に通知する(同法38条2項)。支援センターは、国選弁護人契約弁護士が国選弁護人に選任されたときは、その契約の定めるところにより、その者に国選弁護人の事務を取り扱わせる(同法38条3項、30条1項3号)。国選弁護人の報酬は、刑事訴訟法第38条第2項により、これまで裁判所から支払いがなされてきたが、国選弁護人契約弁護士が国選弁護人に選任された場合にはこの第38条第2項は適用されず(総合法律支援法39条1項)、支援センターが、常勤弁護士には給与として報酬を支払い、それ以外の契約弁護士には契約約款に従った支払いがなされる。
[田口守一 2018年4月18日]
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…第3に,死刑または無期もしくは長期3年をこえる懲役,禁錮にあたるような重大事件において,被告人に弁護人が付いていないか,付いていても出頭しない場合であり,この場合には弁護人なしに開廷することはできない(必要的弁護事件)ので裁判長は職権で弁護人を付さなければならない(289条)。 私選弁護の場合には弁護士以外の者が特別弁護人となることもあるが,国選弁護人は必ず弁護士の中から選任される(38条)。選任は裁判長が行うが(刑事訴訟規則29条),実際の具体的人選は各単位弁護士会にゆだねられており,各弁護士会では,あらかじめ名簿に登録した――受任の意思のある――弁護士の中から順次配置し,当人の内諾を得たうえで裁判所に通知し,これに基づいて選任がなされる。…
…被告人がみずから弁護人を依頼することができないときは,国でこれを付する(憲法37条3項)。すなわち,貧困その他の事由により弁護人を選任することができない者の請求により,裁判所が弁護人を付するのであり(刑事訴訟法36条),これを国選弁護人という(被疑者に対しては認められない)。さらに,憲法の趣旨以上に弁護権を保障するため,一定の重大な犯罪に関する事件を必要的弁護事件として,その公判期日に弁護人が出頭しないときまたは弁護人がいないときには,裁判長が職権で弁護人を付すること(289条)や,年齢や心身の状況から自己を防御する能力の劣っている一定の者について,裁判所が裁量により職権で弁護人を付すること(37条,290条)がある。…
…そこで無資力者でも裁判をはじめとする法律上の保護を受けられるように公的に援助する必要があり,これが法律扶助である。 現在,法律で用意されているものとしては,刑事事件における国選弁護人の制度と民事事件における〈訴訟上の救助〉の制度がある。国選弁護人とは,刑事被告人が貧困その他の理由によって自分で弁護人を選任することができない場合に,裁判所が被告人の請求により国費をもって選任する弁護士である(日本国憲法37条3項,刑事訴訟法36条,刑事訴訟規則29条)。…
※「国選弁護人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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