改訂新版 世界大百科事典 「国鉄運賃」の意味・わかりやすい解説
国鉄運賃 (こくてつうんちん)
日本国有鉄道の運賃は,国民の日常生活および国民経済に及ぼす影響の重大性から,法律に基づいて定めることになっていたため(財政法第3条,財政法第3条の特例に関する法律),国有鉄道運賃法に基づいて設定されていた。このような運賃法定制は,この運賃決定のしくみが設定された1948年当時,国鉄が交通市場の中でかなり独占的な地位を占めていたことが背景となっていた。その後,国鉄が独占的地位を失い,経済情勢が一変したため,77年12月に運賃法を改正し,当分の間,経費増加見込額の範囲内であれば,国会の議決によらず運輸大臣の認可により運賃が改定できるようになった。国鉄の全国一律運賃制度は,明治以降国策として国土の均衡ある開発に資するという観点から採られてきたが,各地域や路線ごとの原価を反映した制度でないため,他の交通機関との間で地域別に不合理な運賃格差を生じたり,鉄道特性を発揮しえない分野から生ずる赤字負担のため鉄道特性を発揮しうる分野の維持,発展が阻害されるなど,国鉄の全般的な競争力の低下とあいまって,この制度そのものの見直しが必要となった。そこで普通旅客を対象とする普通旅客運賃は,79年にそれまでの2賃率地帯制から3賃率地帯制に改め,中・長距離区間における競争事情等を考慮して遠距離逓減率を若干強化した。さらに84年4月からは全国一律運賃制を廃止し,東京・大阪圏の国電,幹線,地方交通線の3グループにわけて,旅客運賃に格差をつける地域別運賃制が導入された。
他方,需要喚起,列車の利用率向上により増収をはかるため,各種の営業割引,例えば往復割引,団体割引,地域別に企画された周遊割引等が行われた。また速さや設備の対価として,利用する列車,車両等の種別により特別急行料金,急行料金,特別車両料金(グリーン料金)などの諸料金が課せられた。これら諸料金制は,利用者が付加的に享受する時間面,快適性などの便益度も考慮して定められるが,他の交通機関との競争事情や線区の需要等に弾力的に対応させることが必要であった。通勤・通学定期旅客運賃については,通用期間1ヵ月または3ヵ月のものは普通旅客運賃の100分の50,6ヵ月のものは100分の40に相当する額をこえることができないとの制約があった(運賃法第5条)。通勤定期の割引率は平均約55%引にまで改められ,法定割引限度に近づいていたが,通学定期は社会政策の観点から平均70%を上回る高率の割引が適用され,公共負担の最たるものの一つとなっていた。法定の割引限度額には理論的根拠がなく,コスト面から妥当な割引率は40%程度とみられる。貨物運賃については,鉄道創業以来採られてきた貨物の運賃負担力,すなわち貨物の価格に基づき適用運賃に格差を設けてきた制度は画一的かつ硬直的で競争実態にそぐわないため,80年に廃止され,運賃制度の抜本的改革が行われた。等級の一本化により,列車単位,数車単位,駅単位,拠点駅発着等による輸送態様別の運送コストの相違を反映した運賃体系が設けられ,大量,定型輸送に応じて運賃は割安となるため,鉄道輸送の効率化と原価低減が運賃制度面でも促された。さらに方面別,地域別などの市場条件や輸送波動を考慮した営業割引が実施され,貨物誘致,輸送力の有効利用のための弾力的な運用が注目された。1987年の民営・分割化にあたり,国有鉄道運賃法は廃止され,運賃の改定は運輸大臣の認可で行えるようになったが,JR各社は従来の国鉄の運賃・料金をそのまま継続した。1996年にJR北海道,JR四国,JR九州はそれぞれ新しい運賃を認可された。一方,本州のJR3社は,消費税を上乗せしたほかは国鉄運賃を踏襲している。
執筆者:真島 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報