国際収支理論(読み)こくさいしゅうしりろん

改訂新版 世界大百科事典 「国際収支理論」の意味・わかりやすい解説

国際収支理論 (こくさいしゅうしりろん)

さまざまな経済主体が一定期間中に行うすべての国際経済取引の結果,一国全体として対外決済上の地位がどのように変化するかを分析し,そのマクロ経済政策上の含意を明らかにするための理論固定為替相場制のもとでは,為替相場の安定を維持するために通貨当局は国際収支赤字黒字によって生じる対外決済手段の需給アンバランスを埋めなければならない。また変動為替相場制のもとでは,国際収支の赤字・黒字は為替相場の変動と密接な関係がある。このため,国際収支の動向は経済政策上きわめて重要な意味をもつ。

 一国の国際収支がアンバランスとなったとき,その国の所得水準や価格水準を外国との間で相対的に変化させることにより,国際収支のアンバランスを縮小ないし消滅させることを国際収支の調整という。調整過程で重要な役割を果たすのは,為替相場,所得水準,および貨幣供給の変化である。国際収支の赤字を例にとれば,固定相場制下の平価切下げや変動相場制下の為替相場の減価は,自国品の価格を外国品に比べて相対的に引き下げ,国際収支を改善する。所得水準の引下げも,自国の輸入の減少を通じて同様な効果をもたらす。また,貨幣供給の削減は,物価の引下げおよび金利の上昇をもたらし,経常収支と資本収支両面から国際収支を改善する。したがって,赤字の調整に際しては,一般に所得水準や物価水準(あるいは物価上昇率)の低下,失業の増加,交易条件の悪化等が生じることが多い。逆に,国際収支黒字の調整の際には,インフレーション激化や輸出産業の沈滞といった悪影響が現れやすい。このような調整過程は,国際収支のアンバランスが生じたとき自動的に働くものもあるが,政策当局の裁量によってその働きを促進したり抑制したりすることもできる。調整過程でみられる所得や物価,あるいは産業構造の変化が国内経済政策の目標と合致するか否かに応じて,自動的調整機構の働きを放置するか,それを阻害するか,あるいはその作用を強化するかが重要な政策課題となる。

 調整以外の経路を通して対外決済手段の需給に影響を及ぼそうとする政策もある。輸入抑制,輸出促進,輸出自主規制,資本流出入に対する規制等がよく用いられる是正策である。しかし,これらの政策措置は,資源配分上の効率性を犠牲にしたり,所得分配恣意(しい)的にゆがめたりすることが多いため,その正当性に厳しい検討を加える必要がある。

 国際収支のアンバランスを調整ないし是正すべきかどうかを判断するまで,あるいはそれらの効果が現れるまでの間,対外決済手段の需給不均衡を埋めるためにとられる対応は,国際収支のファイナンスと呼ばれる。外貨準備の使用や蓄積,IMF(国際通貨基金)や外国中央銀行との間の短期的貸借,民間銀行からの借入れなどがそれである。国際収支の一時的・可逆的アンバランスに対する対応策としては適切であるが,短期の借入れや貸付けの累積には限界があり,長期的対応策を伴わないファイナンスの継続は,かえって大規模かつ急激な調整を必要とする危険をはらんでいる。

 以上に述べた国際収支の調整,是正,およびファイナンスのメカニズムを明らかにするのが,国際収支理論の中心的課題といえる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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