明治初年の地租改正にさいして発行された土地所有証書をいう。この地券制度は,1871年(明治4)12月東京府下市街地への地券発行を先駆とし,翌72年2月地所永代売買解禁にともなう売買譲渡の土地への地券発行に始まり,同年7月一般私有地へ拡大された。72年の干支により壬申(じんしん)地券とよばれるこの地券は,土地所有権=納税義務を表示するものであり,所有者,所在,地目,反別,石高,代価が記載された。この壬申地券の発行期限は同年10月中とされていたが,種々の障害のために遅延するなかで,73年6月の地租改正法の公布となった。壬申地券は,所有者=納税義務者の確定,全国地価の点検といった点で,地租改正実施の前提となった。そして地租改正の進行に応じて,その確定結果を記載した新しい地券(改正地券)に切り替えられていった。その記載事項は,所有者,所在,地目,反別,地価,地租である。壬申地券と同様に,この地券は土地所有権=納税義務を表示するものであり,所有権の移転ごとに地券の書換えをおこなうべきものとされたが,79年2月からは,書換えのかわりに裏書方式が採用された。80年11月土地売買譲渡規則の制定により,所有権の移転は戸長役場の公証手続によっておこなわれることになったため,地券の裏書は納税義務の移転のみを示すものとなった。そして89年3月土地台帳規則の公布により,地券制度は廃止されて土地台帳制度へ移行した。
執筆者:近藤 哲生
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1872年(明治5)以降、明治政府が土地所有者に発行した土地所有権を証明する証券。72年2月の土地永代売買解禁に前後して発行された壬申(じんしん)地券と、翌73年7月の地租改正法公布に基づき、壬申地券を回収し改めて交付した改正地券とに大別される。壬申地券は、従来無税の市街地に発行されたものと、有租の郡村地に発行されたものとの2種類があり、前者は、71年12月東京府下に発行が達せられたのが最初である。発行とともに地価100分の1の新税(沽券(こけん)税)が課せられた。後者は、初めは売買譲渡される地への交付が達せられ、同年7月には全国一般の地に交付されることになった。郡村地券では、貢租は従来のまま据え置かれた。改正地券は、一筆の地に一枚ずつ交付され、地租改正法で定められた地価100分の3(77年から100分の2.5)の新税が課せられた。地券は、公証制度の整備につれて私法的機能を失い、89年3月、土地台帳規則制定に至って廃止された。
なお、1858年(安政5)の安政(あんせい)五か国条約に基づき横浜、長崎などに設けられた居留地内で、各国領事は、当該国の永代借地人(居留地の土地所有権者は幕府=日本政府)にその借地権を公証する証券Title Deedを発行した。これをも地券と称している。
[丹羽邦男]
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地租改正事業で交付され,土地所有権の保証と地租負担義務を表示する証券。地租改正施行前年の1872年(明治5)に発行された壬申(じんしん)地券は,交付作業に諸々の障害が生じたため中途で打ち切られ,地租改正の実施にともなってあらためて別の地券(改正地券)が交付された。地券の記載事項は,所有者名・所在地・地目・段別・地価・地租。この地券制度によって,近代国家における権利と義務との関係が,土地所有権保証と地租納税義務というかたちで確定された。89年の土地台帳制への移行にともない地券は廃止された。
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…資本主義発展の基礎をつくるための法として重要なものは,人民を把握するための戸籍法(1871公布。戸籍),近代的土地制度を確立するための地券制度(1872)と地租改正条例(1873公布),近代的教育制度を確立するための学制(1872公布)・教育令(1879,1880公布),商工業を発展させるための国立銀行条例(1872公布)・日本銀行条例・為替手形約束手形条例(ともに1882公布)などであった。(2)第2期は,国際的・国内的に法体制を確立することを目標とした法典編纂と条約改正の時期であり,1885年末の太政官制の廃止,内閣制度の発足から99年の改正条約の発効,法典の全面施行に至る。…
…地借・店借のものたちはそれを負担せず,町政・公事にも関与しえず,家持・地主と地借・店借とは身分的に区分されていた。地租改正に先だって,1872年(明治5)いちはやく東京市街地(町地(まちじ),武家地)に地券が交付され,沽券税法の施行をみた。これは,町地(町屋敷,拝領地など種々の土地を含むが,その主要部分は町屋敷),武家地には旧幕時代,さまざまの特典が与えられていたので,それを統一税制下の課税対象に組み込むための措置であり,それを迅速に果たしえたのは,町屋敷には早くから売買・質入れが認められて所有権が成立していたからである。…
※「地券」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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