日本大百科全書(ニッポニカ) 「地球熱学」の意味・わかりやすい解説
地球熱学
ちきゅうねつがく
geothermics
地球上にみられるさまざまな地質現象を熱エネルギー論的に研究する地球物理学の一分野。地球全体の熱収支を考えるとき、際だって大きな比率を占めるのは太陽からの放射と地表からの反射である。大気中や地下のごく浅い部分の温度場はほとんどこれらによって決まるので、気象学においてはきわめて重要であるが、地球内部の熱的状態にはほとんど影響を与えず、地質現象に直接かかわり合うことはまれである。地球の熱史を最初に研究したのはイギリスの物理学者ケルビンであるが、地球高温起源説に基づき、しかも放射性発熱を考慮しなかったことから、まったく誤った結論に達した。現在の地球低温起源説によれば、約45億年とされる地球の歴史のごく初期に急速な加熱と核・マントルの分離がおこり、その後はしだいに冷却してきたと考えられている。こうした熱史のなかで地球が獲得してきたエネルギーは、低温の始源物質の集積や核形成に伴う重力エネルギーおよび放射性元素からの発熱であり、これらがさまざまな地質現象のエネルギー源になってきたと考えることができる。地球内部から放出される熱のうちもっとも大きな比率を占めるのは、地殻熱流量である。単位面積当りの熱量はわずかでも地球全表面について合計すると放射性発熱にほぼ等しい量となり、火山活動により放出される熱量の数十倍と見積もられている。こうした熱収支と地質現象の接点として、プレートテクトニクスの考えはきわめて重要である。地球内部の温度はさまざまな観測や理論から、上部マントルで1000℃程度、マントル・核境界で4000℃程度と見積もられているが、こうした条件下では、いわゆるマントル対流がおこりうるとされている。プレート運動は、こうした状況下でのマントル対流の一種であり、地球熱学的な立場からの研究も盛んに行われている。対流は地球の冷却を早める効果があるので、長期的な熱史の研究においても、きわめて重要である。
[吉井敏尅]